さて、巫女さんと聞いて触手という不埒なネタを思いつかれた方は薄い本か何かの見過ぎだとツッコミを入れさせていただくとして。巫女さんというのは初詣とかでは見た事があると言う読者の皆様はおられるかもしれないが、日常的に巫女さんがいる神社、というのが近くにあるという方はそうはおられるのだろうか。私の家から徒歩十分圏内にも神社はあるのだが、普段は神主さんも巫女さんもおらず、無人の神社である。それは何故なのだろうか。
と、その辺りはまぁご自身で調べていただきたいのだが、簡単に言ってしまうと財源不足である。めちゃくちゃ身もふたもない事を言ってしまうと、神職の給料すらまともに払えず、多くの神社では兼業している事も多い。この作品における主人公、涼香(表紙右)の実家である神社もそんな財政難なほうの神社であり。何とかしようと色々模索するもほぼ二番煎じにしかならず、不安を覚える日々。
「というか神様、サブカルに嵌ってない!?」
しかしある日、祝日に。実家の神社にある観光資源にいきなり幽世の門らしきものが開かれ吸い込まれて幽世、もとい異世界へ。その場に届いた祭神、緋御珠姫から届いた手紙に書かれていたのは、元の世界へ帰る為には元々はこの異世界出身である緋御珠姫への信仰を集め、力をためよというもの。巫女服と大幣、神社で売られているマスコットが初期装備。使える権能は「神託」、「祈祷」、「奇跡」の三つ。そしてケモミミと尻尾はおまけ。 だが勿論この世界に伝手がある訳でもなく、何処に行けばいいのかも分からぬ。
「では私にも、そのお手伝いをさせていただけませんか?」
その方向性を与えるのは、歩き出した先で倒れていた、この世界における唯一の宗教、通称「教会」の聖女見習い、ソティ(表紙左)。 話を聞いてみるとブラックな宗教である教会から、涼香に助けられ諭されて足抜けし彼女の味方になり。一先ず村を目指した先、見つけた開拓村で病気に臥せっていた村長の娘、アンリを助けた事で逗留する事になり。 開拓村を本拠地に、神獣を主とした宗教を作ることに。
「日本語って、難しすぎません!?」
さて、ではその設立は簡単にいくか、というと。実はそう簡単ではない。作者様の前作である「新米錬金術師の店舗経営」シリーズをお読みの方はお分かりかもしれないが。「教会」は絶対、ではないから刺激しなきゃ敵対はしないけれど、今、武力もない状態で敵対したら負けは確定。信仰ポイントを集めるミッションの一部も、教会との敵対を招きそうなので手出しできず。と言う訳でまずは少しずつお社を作りながら、村の産業になりそうなものを作ったり、ソティに日本語を教えたり。
「帰れるとしても、その後かな」
しかし、やはりもろもろのお金の動きから教会に少しだけ警戒され、開拓村の近くに封印されていた魔狼、ガルムが解き放たれると言う一手を受け。村を守る為に戦い、信仰ポイントの前借という禁忌の一手も使って何とか守り抜き。まだ帰れない、とこの世界に残る事を選ぶのだ。
割とのんびり、ほのぼのした中で少しずつ宗教を作っていくこの作品。スローライフ者が好きな方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
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