読書感想:無敵な聖女騎士の気ままに辺境開拓1 聖術と錬金術を組み合わせて楽しい開拓ライフ

 

 さて、開拓という言葉を聞いて画面の前の読者の皆様は何を連想されるであろうか。DASH島、という単語を思い浮かべた方もおられるかもしれない。現代においてはそちらの方が有名であろう。しかし開拓、というのは歴史上においては命がけとも言える事である。例えばアメリカの大開拓時代。原住民であったインディアンとの、血生臭い戦いもあったというのは歴史の授業を受けてきた方ならご存じであるかもしれない。

 

 

しかしこの作品においては、開拓もすいすい、基本的にはほのぼのスローライフが繰り広げられる。どんな話なのか、早速見ていきたい。

 

異世界の王国、ベルシュタイア。その郊外にある王国で広く信仰される聖主教という宗教の総本山、神殿。この国は常に魔物の脅威に晒されており。故にこの聖主教には、祈る聖女と戦う騎士、双方の力を持つ聖女騎士という役職が存在し。不可欠なほどに重要なものとして各地で重宝されていた。

 

そんな聖女騎士として任命されたばかりの少女、ジナイーダ(表紙)。任地を決める通例のくじで出たのは、東部辺境のラーベル村での勤務。この村は遠方につき神殿からの支援が届きにくく、更には過疎化も進み、働き手が不足し。おまけにこの村の聖堂には世に解き放ってはならぬものが封印されている、という基本的には熟練の聖女騎士を派遣すべき場所で。間違っても新米が派遣されるような場所ではなかった。

 

「お前向けの務めだろ?」

 

「―――こんなに耕していいんですかっ!?」

 

しかし、ジナイーダの師匠であるヴィクトリアはお前向きだろ、と笑い。その言葉通りに村について早々、彼女は放棄された耕作地、という彼女にとってはお宝にとんでもなく目を輝かせる。

 

さて何が、というと実は彼女は元々農村出身、そもそも畑仕事は苦ではなく寧ろ大好き。そして自身の掲げるテーマも農業の振興という、正に渡りに船。

 

早速村に住まう精霊さんに挨拶し、錬金術で創り出した草を捲いて栄養を蓄えさせ、更には石灰を入手するために遠征したりして。

 

「ちょうどいい機会なので殲滅させていただきます」

 

無論、農作業だけではなく。村を狙う魔物、そしてその裏に居る魔族の手は限りなく。だけど邪魔するなら悪即断、さっさと殲滅。最強の聖女騎士、「十二聖」にも劣らぬと言われたその実力で、語り合う事もなく突っ込んでいき。さくさく、まるで雑草を刈り取るように脅威を全て叩き潰す。

 

お付きの女官、アローナに見守られたり。村を守る一時的な増援としてやってきた同期、ジェリカを振り回したりもして。それでもひたむきに、フレンドリーに。いつの間にか「聖女騎士」の垣根を越えて、「村のお姉さん」のように受け入れられて行って。

 

「思い出してつらくもなりますけれど、それ以上に、ここにいたい、この村にずっといたい、この村を守りたいって思いが溢れて、とても心が温かくなるのです」

 

気が付けば、かつて飢饉で村の皆を亡くして、自分も死ぬ寸前だった過去の記憶は癒えていく。この村を、大切に思っていく。この村に、新たな故郷に根付いていくのである。

 

ほのぼの、そして人の心が温かいスローライフが楽しめるこの作品。人の心の温かさに触れてみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。