読書感想:放課後の教室に、恋はつもる。

 

 さて、今の時代、性の多様性は叫ばれて徐々に世の中に浸透している、ような気もしている。正直、頭のお固い上の世代よりも、若い世代は割と受け入れているような気もするし、この間見たNHKのとある番組では、アメリカに住む男性の、「旦那」がさらりと紹介されていて、言葉に出さずともちょっとだけ驚いた次第であるが。それはともかく。最近、百合ものが少しずつ増えてきている気もしているが、年の差×百合ものが多い気がするのは何故だろうか。 そういう流行り、と言ってしまえばそれまでかもしれないが。

 

 

さてそんな歳の差ものと言われてどんなシチュエーションが多いのか、というと。教師×生徒な恋愛ものが多い、と言ってもいいかもしれない。一昔前であれば生徒の方が男子なラブコメものが人気であったかもしれないがそれを語ると世代がバレてしまうのでそれは置いておいて。ここまでで分かっていただけたかと思うが、この作品もそう言う作品なのである。

 

「大丈夫ですよ。こっちはそのつもりでしましたから」

 

初恋と失恋を拗らせて大人になって、およそ四千日。国語教師であり地味で堅物と言う評判の、莉緒(表紙右)に向けられる思いは、放課後の教室にて結実を迎える。

 

「先生が受け入れてくれるまで」

 

その思いを向けてくるのは誰か、というと。クラスのカーストトップであるギャル、メイサ(表紙左)。自主的と言う形を取った勉強会に唯一出席する彼女、故に放課後の教室は二人の世界、のようなもの。その中で彼女は愛を囁き、真っ直ぐに思いを伝え続ける。いくら拒まれようとも折れることはなく、何度もこの想い届けと真っ直ぐに。

 

ではそこに至るまでに何があったのか。そも莉緒とメイサは別に担任と教え子、という関係は伴わない。一教科の担当と教え子、そこまで密接でもない筈の関係。

 

「メイサさんにすぐに大人になることを強要しないでください」

 

「合意には見えませんが」

 

しかし、莉緒は教師である、大人である。そして誰よりも、教師である。メイサが大学に進みたいと言う思いを隠していると知れば、母親の元に三者面談を挑み、真っ直ぐに思いを伝えて譲歩を引き出し。メイサが元カレに面倒な弱みを握られ関係を迫られている時は、彼女の元に駆け付けて助け出したり。何処までも大人として教師として。生徒に真っ直ぐに向き合い、その助けになろうと尽力してくれる。

 

その心に隠れる「女」の思い。恩師に初恋をし、しかし失恋し。その失恋を燻らせたまま、メイサに少しずつ心惹かれていく。触れ合う理由を強引に引き出す程に。だがそれはいけない、と心押し隠そうとし、押し殺そうとする。

 

「好き。あたし先生のことが、大好き」

 

その過去を知れず、心に迫り切ることは出来ず。だけど、確かに恋をした。だからメイサの中に恋は育ち降り積もっていく、純白の雪のように。だけどまだすれ違う、二人の恋はまだ始まったばかりである。

 

現実は厳しいけれどどこか甘くて優しいこの作品。甘めな百合が好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 放課後の教室に、恋はつもる。 (ファンタジア文庫) : 日日 綴郎, 雪子: 本