読書感想:彼女の“適切な距離”が近すぎる

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 さて、既にこの世界に新型コロナウイルスがまん延して如何程になってしまったのであろうか。四年ほど前の映像を見ると、あまりにも一か所に人が集まっている事で驚きを感じる、という事もあるかもしれない。それほどまでに新しい生活様式は既に我々の生活の中に根付いている。いつの日か、また前のように集まれる日が来ることを祈りたい次第である。

 

 

と、ちょっと湿っぽいかもしれぬ前置きはさておき、この作品はそんな「ニューノーマル」な状況を舞台に描くラブコメであり。今の世の中からすると、逆に異端、もしくは新鮮なスキンシップが乱舞するラブコメなのである。

 

新型感染症が収まらぬ今日この頃、連休明け。ごく普通の少年、夕市の通う学校に一人の転校生が現れる。その名は凪咲(表紙)。コイバナ大好き、誰にでも気さくで距離感近め、オタクにも優しい。正にギャルに対する幻想を詰め込んだかのような少女。

 

「んー・・・・・・。いいこと考えちゃった」

 

 が、しかし。夕市はひょんな事から彼女の秘密を知る。それは彼女が官僚である姉、玲が室長を務める政府の少子化対策プロジェクトの一員であるという事。恋愛の空気を振りまく事で、学校を恋愛の渦に叩き込むという目的を以て潜入したエージェントであるという事。秘密を知られた凪咲は夕市を恋人役に選び。夕市もまたなし崩し的に了承し、二人は利害関係で結ばれた恋人関係となるのである。

 

政府のプロジェクトにしては妙に脇が甘い気と共に首をかしげてしまうかもしれないが、つまりはそういう事である。SNSにラブラブな日常風景を頻繁に投稿したり、恋愛相談を受けた凪咲を助ける為、感染対策を見回りながらデートしたり。夕市の幼馴染である亜紀も秘密に巻き込み、ドタバタの日常は展開されていく。

 

 お互いの家を訪ねたり、お互いの提案で出かけたり。距離を縮めていく中で、二人の恋が本物に変わるのは必然であったのかもしれない。しかし、その恋を玲の指示が揺らす。モデルケースを増やす為、別の恋人を作ると言う指示が波紋を投げかける。

 

姉への思い、夕市への思い。二つの思いの間で苦悩し、もう捨てきれぬ恋心に涙する凪咲。チャンスと言わんばかりに迫る亜紀に振り回されながらも、これで良いのかと自問自答する夕市。

 

「言うのが遅くなって悪かったな」

 

―――これでいい、訳はない。まだ伝えていない事がある。言いたいことがある、君が本当の意味で好きになったと。もう一度向き合い、思いを伝え。二人は本当の意味で恋人同士となるのである。

 

ニューノーマルな状況を下地にしながら、王道のラブコメを詰め込んだこの作品。故に真っ直ぐに面白いし、心が萌えるのである。

 

可愛いヒロインと恋路に萌えたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

彼女の"適切な距離(ソーシャルディスタンス)"が近すぎる (GA文庫) | 冬空こうじ, 小森くづゆ |本 | 通販 | Amazon