読書感想:クールな女神様と一緒に住んだら、甘やかしすぎてポンコツにしてしまった件について1

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は「同棲」と聞いて、どんな事を思い浮かべられるであろうか。昨今のラブコメにおいては高校生にして既に同棲を始める、という状況からストーリーが始まる事も多いが、本来の場合をよく考えてみると「同棲」というのは大人がよく行うものであり、そこには恋愛感情が根底にあるものである。恋愛感情が絡まぬ場合、そこにあるのは「同居」という関係性なのではないだろうか。

 

 

それはともかく、この作品もまた「同棲」という状況から始まっていくラブコメである。しかし先に言ってしまおう、この作品はタイトルから連想されるような普通のラブコメではない。

 

 この作品の根底にあるのは、どろどろとしたもの。それぞれが複雑な事情を持つ人間関係が醸し出す、混沌としたものなのである。

 

家族同然に育った従姉が留学し、父親もまた仕事の都合により、一人暮らし。とある災害により母親を失ったという事と、幼馴染である夏帆に半年前にフラれたということ以外はごく普通の少年、晴人。彼が一人暮らしするアパートに、ある日一つの影が乗り込んでくる。

 

「だって、今日からここがわたしの家になるんだもの」

 

 その名は玲衣(表紙)。地元で一番大きな企業グループの令嬢であり、本人もまた「氷の令嬢」と呼ばれるほどに孤高の存在。彼女は晴人の従姉から鍵を貰った事、自分と晴人ははとこの関係であると語り。訳も分からぬままに、二人での生活が幕を開ける。

 

最初はどこか遠かった彼女。実家に戻れぬやんごとなき事情を抱え、もう頼る所がここ以外にないけれど、それでも誰も信用できぬ。そう言わんばかりに、まるでハリネズミのように心を武装していた彼女。そんな彼女の心を、少しずつ晴人が溶かしていく。ある時は暴漢から身を挺して守り、またある時は病気をしたときに献身的に看病し。

 

「秋原くんのこと、そんなに嫌いじゃない」

 

 まるで彼にだけは心を許す猫のように、徐々に彼に寄り掛かっていく彼女。・・・しかし、この作品はそう簡単には終わらない。先に説明した、複雑な事情を持つ人間関係が牙を剥いてくるのだ。

 

フラれても尚、心を夏帆に残す晴人。そんな彼と夏帆が並んで歩いてほしいと願う夏帆の親友、悠希乃。そして、実は彼女だけが知っている秘密があったからこそ告白を断った夏帆の本心。

 

渦巻くは人の悪意、引き裂かれそうになる彼等の関係。夏帆から晴人に仕掛けた睦みを目撃し心乱す玲衣。だがそんな彼女を晴人は真っ直ぐに受け止め、自分もまた戦うと告げる。

 

「晴人くんに、佐々木さんよりも、わたしのことを好きになってもらうの」

 

そう言ってくれた彼の手を離したくない、隣にいるのは自分でいたい。今まで諦めて逃げてばかりだった玲衣もまた、戦う事を決める。彼の隣にある為に。

 

だがこの複雑な関係は果たして何処までが本当なのか。それを知るキーパーソンは一人、彼等の元へ向かう事を決める。果たしてその行動は事態を動かす鍵となるのか。

 

まさにいい意味で期待を裏切られる、腹の底にたまるラブコメであるこの作品。ただ甘いだけ、そうではない作品を読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

クールな女神様と一緒に住んだら、甘やかしすぎてポンコツにしてしまった件について 1 (HJ文庫) | 軽井 広, 黒兎ゆう |本 | 通販 | Amazon