読書感想:君の先生でもヒロインになれますか?

 

 

 さて、教師と生徒のラブコメと言うのは、例えば、と今あげようとした作品を思い浮かべたら、多分今のオタクな皆様は分からぬであろう、自分の古ぶりを思い知らされたので敢えて言わぬとして。教師と生徒、その恋愛に付随するのは禁断、背徳、と言ってもいいかもしれぬ。卒業後であれば一応は問題なし、しかし現役生徒と教師のラブコメは倫理的に不純。そう考えると、中々に難しく奥深いラブコメであるのかもしれぬ。

 

 

ではこの作品は、どうなのかと言うと。まぁタイトルの通り、教師と生徒のラブコメである。何処かのTCGで聞いたことの在りそうな名前、教師歴二年目の日本史教師、レイユ(表紙)をヒロインとして繰り広げられるラブコメなのだ。

 

実の両親が散々揉めまくっている環境で育ったために恋愛には興味なし。唯一の味方であった祖母に憧れ教師にはなったものの、まかされる仕事や責任も増えて来て、家にはただ寝に帰るだけ。社会人の一人暮らしに、付き物かもしれぬ孤独感や寂寥感を日々感じる中で。祖母から送られてきたいちごの御裾分けの為、隣室を訪れたらそこに住んでいたのは、教え子でもある悠凪であり。一度意識してしまったものは覆しようがない、ならばせめて意識しない為の決まりを作ろうとのすり合わせの為、彼女は彼の部屋を訪れる。

 

「涙、出てますけど」

 

話し合い、きちんと線を引いて、それで終わり。そうなる筈だった。しかし久方ぶりの温かな手料理に、思わず涙が出てきてしまい。知らぬ間に無味乾燥としていた心に気付き。更には彼に散々愚痴ってそのまま寝落ちしてしまい。よりやってしまった感の強くなる中、二人は「隣人協定」と名付けた協定を結ぶ事となる。いくつかの条文に分かれたそれは、お互い一人暮らしだからこその助け合いをする為のもの。

 

 

だけど、一度意識してしまえば。彼に力になって欲しい、と思わず願ってしまい、なにくれとなく様々な事をサポートされたら。気が付けば、惹かれていくのはあっという間だった、そうなっていた。本当は駄目だと心が止めるのに、その心が抑えられないと言わんばかりに。

 

「君の先生でも恋人になれますか?」

 

それでも、最後の一線だけは引いて。だけど、お互いの事を知って。その先に交わすのは新たな条項。それはある意味、未来を誓い合うようなもの。だけど、レイユはまだ知らぬ。彼の周りにはフラグはまだあり、そして彼が一人暮らしをする原因となった存在もまた、フラグをくゆらせている事を。

 

攻めに押されて、知って近づく。まっすぐなラブコメが心を打つ、かもしれぬこの作品。年上とのラブコメを見たい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 君の先生でもヒロインになれますか? (電撃文庫) : 羽場 楽人, 塩こうじ: 本