読書感想:さあ、脱獄を始めましょう

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は「白鳥由栄」という人物をご存じであろうか。知らないと言う読者様も多いであろう。それもまた仕方のない事かもしれない、何故ならばこの人物は恐らく、歴史の教科書には出てこないから。では彼は一体なぜ有名なのであろうか? 偉業を為したのか、と聞かれるとある意味偉業であるのかもしれない。何故ならば彼は、「昭和の脱獄王」とも呼ばれ様々な創作におけるモデルとして今も尚語られる人物なのである。

 

 

と、いうある意味歴史の授業的な前置きはさておき、この作品はどういう作品なのかと聞かれると、タイトル通りである。

 

 しかし、今巻だけでは未だ脱獄までは至ってはいない。言わばこの作品は大きな枠組みの作品なのである。

 

四方を山に囲まれた、風光明媚な街、パノプティコン。そこで暮らしながら特に何の変哲もない平凡な日常を送る少年、ヴァン。彼はある日、突如として透視能力に目覚め、試しに使ってみた所、少女達の着替えの光景を意図せずして覗いてしまい。その中の一人、ダイヤ(表紙)から何故か徹底的に付きまとわれる事になる。

 

 意味も分からず、さりとて拒んでも追ってくる。そんな中、些細な違和感が彼の周りに降り積もり、街の外の光景、山なんてなく空に至るまで全てを巨大な壁に囲まれていたと言う事実を知り。このパノプティコンという都市が、その意味の通り「監獄」であると気付いてしまう。

 

気付いてしまった彼にダイヤは言う。ここは監獄でありダイヤ達は看守、そしてヴァン達はナノマシンにより記憶を奪われてしまった犯罪者であると。意味も分からず、さりとて受け入れるしかなく。街を探る中、親友であるアッシュが暴行を受けている現場に遭遇し。規律の違反により、彼はアッシュと一緒に地下プラント送りとなってしまう。

 

自信の指導役となった看守、サファイヤから教わる異能力の意味。基本は念動力であると教わり、何故かあっという間に念動力を使いこなせるようになり。どんどんと成果を上げる事により、ヴァンは注目を集めていく事となる。

 

アッシュ、ヴァン、看守たち。更にはヴァンの「幼馴染」であるナガト。それぞれの思いが巡り、騙しだまし合う。己の能力をひた隠し、ひょんな事から操られた者達と激突することになる。

 

「私は貴方を絶対に逃がしません。一生監視します」

 

 舞台に広がるのは謎だらけ、そこにあるのは五里霧中な中の虚実。そんな世界の中で、サスペンスな世界観の中で。異能を武器にぶつかり合うこの作品。多角的な楽しみ方のできる、大きな物語が動き出した感覚を味わえる作品である。

 

果たしてこの先、脱獄は出来るのか。

 

サスペンス風バトルが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

さあ、脱獄を始めましょう (MF文庫J) | 藤川 恵蔵, 茨乃 |本 | 通販 | Amazon