読書感想:見習い聖女の先導者

 

 さて、先導者というのは文字通り誰かの道の先まで導く者である。その導き方、というのは多岐に渡ると言えよう。例えば教え、時に叱りながらも導いたり。例えば教えながらも、こっそりとその道を阻む障害を排除したり。様々な方法があるのである。

 

 

ではこの作品における「先導者」、カイル(表紙左)はヒロインである辺境の村のシスター、ロゼリア(表紙右)をどう導いていくのだろうか。それはカイルの裏の顔が関わってくる。彼はこの世界における宗教組織に所属する暗殺者。法では裁けぬ悪を秘密裡に断罪する「執行者」と呼ばれる存在なのだ。

 

「どうするかは、キミの自由だよ」

 

しかし最近、カイルは目立ち過ぎたらしい。「罪人殺しの悪魔」、という異名を付けられ徐々に名が売れ始めた彼を隠す為、表向きは左遷と言う形で辺境の村に転属する事となり。そこでロゼリアを始めとする村人たちに歓迎を受けながらも。執行人以外の生き方を知らぬカイルの心は、何も変わる事が無く。

 

「聖女に、なりたくないですか?」

 

その夜、カイルを狙い差し向けられたのは時限爆弾の魔法を仕込まれた刺客達。幸いにして避難は間に合うも、村は炎の海の中に消え。その中で、ロゼリアが無意識に発動させた「魔力消失」の力を垣間見。聖女になりたい、という彼女の心を擽り、彼女を聖女へと導く事で。自分の復権を画策する。

 

「私は、カイルさんにこれ以上、手を汚してほしくありません」

 

しかし、カイルの殺人を目撃したロゼリアは彼にもう殺しをしてほしくない、と願い。嘘をつくつもりでカイルはそのお願いを受け入れる。

 

この約束が、カイルの任務以外を知らなかった心に少しずつ、変化を招いていく事となる。聖都へ繋がる中継都市で有名になる事を画策し、かの都市に派遣されたシスター、レミアと執行者でもある牧師、アッシュとぶつかったり協力したりする中で。殺しをしようとする中で、その手をとどまらせる。殺しへと踏み出そうとするその手を止めてくる。

 

けれど黒幕の手は止まらない。再び刺客を差し向けられ、カイルが再び殺人に手を染める事となり。彼の罪を雪ぐ為に、ロゼリアは戦争の最前線に駆り出される事となる。

 

「あんたを確実に始末できるのなら、いくらでも利用してやる」

 

叶えるべきは何か。それはロゼリアの願い。日常に戻りたいと言うその願いを叶える為、カイルは戦争を終わらすために駆け抜ける。例え自分の命を引き換えにするとしても、大切なものを守る為に。命がけの魔法を発動させる。

 

その先にはどんな光景が待っているのか。それは是非に、画面の前の読者の皆様の目で見届けて欲しい。

 

どこか血生臭いバトルの中に優しさの温かみがあるこの作品。並び立つ二人が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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