読書感想:亡命天使 ~窓際外交官は如何にして終末戦争を阻止したか~

 

さて、画面の前の読者の皆様は今年のノーベル賞の授賞式の事はご存じであろうか。何やらノーベル平和賞を受賞された方がアメリカへの亡命、のような動きをされていたらしいが。そう、亡命である。日本人だと正直そんなに見たことはない、というか報道くらいでしか見たことがないかもしれない。例えば社会主義国家からの亡命。それは命がけとなる事が基本であり、捕まったのならば命の危機があり、亡命に成功しても、遺された者がいるならばどうなってしまうのか分からない。亡命というのは、そういう行動なのである。

 

 

という訳でこの作品はどういう作品かと言うと。窓際外交官、サピンが突然大使館に駆け込んできた少女、ラジャ(表紙)と出会う事から始まる、交渉という名の戦いのお話なのである。

 

世界大戦終結から五十年。世界屈指の大国であるフェルザ帝国は、帝国以上の歴史と伝統を持つ古い国、アルトスタ王国に軍事力を脅しとして領土の割譲を迫り。フェルザ帝国の帝都にあるアルトスタ大使館も、微妙な緊張感に包まれていた。

 

「・・・・・・やっかいなお客様だな。この大変な時期に」

 

そんなある日、花形部署である政治部に務めるミアスは、庶務部に所属しているサピンの元を訪ねる。なんでもやってきた亡命希望者が帝国共通語もほぼ話せないので、他言語を喋れるサピンを大使が指名したらしく。やる気のない様子を見せるも、まぁ命令ならば仕方なし。面会したラジャにさまざまな言語を試し判明したのは、どうも彼女の言葉は古語であるらしい、との事。一先ず話を通すことに成功はする中、やってきた帝国関係者が彼女の引き渡しを要求してくる。

 

「残念ですが、ラジャの引き渡しはできません」

 

大国の圧力を前に見捨てられそうになっているラジャ。そこへ助け舟を出したのは、サピン。規則を盾にきちんと押し通し、なじみの人物も都合よく呼び寄せて、その場は帝国の人間を追い返す事には成功する。が、しかし。褒められはするも庶務課なのに出しゃばった真似をした責任を、という事で領土に関する交渉の場に駆り出されることに。

 

これより巻き込まれていくのは、大国対小国の交渉、という名の戦いの場。こちらの手札は少なく、やっとの思いで確保した切り札も、帝国に裏切者、という扱いをされて消されてしまい。 交渉は二転三転、難局にもつれ込んでいく中、明かされていくのはサピンの過去。かつて人の悪意にさらされ父親を亡くした過去。ラジャの昔話。一人生き残ってしまった、過去。

 

「俺は、親父みたいになる人間を、もう見たくないんだ」

 

復活してしまった古代の兵器を消し去るべく、己の命を犠牲にしようとするラジャ。そんな犠牲は許容しない、皆で平和を作るんだ、とサピンは必死に手を伸ばし。

 

「俺のために、協力してくれないか?」

 

その先、一先ずの決着となった後。真に望んだ平和な世界を作る為、彼女と共に見果てぬ道を進み始めるのである。

 

交渉、という一見地味、しかし中身は思惑と舌戦の飛び交う熱い戦いを描いたこの作品。中々見慣れぬ戦いを見てみたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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