さて、性的欲求というのは基本的に画面の前の読者の皆様も持っているものであろう。エロい事がしたい、というリビドーはある程度の年齢までは高い、という事が多いであろう。しかしそれを誰にでも無理矢理、とかしてしまうと犯罪者な訳であり。そうならない為に人は学ぶ、のかもしれない。
この作品の主人公、アッシュ(表紙中央)もまたそう言った感じの根っこである。しかし彼は犯罪者、という訳ではなく異世界の王国の一領主、なのだが。
世界の三分の一を版図とする王国の中でも、有数の広大な領地。しかしそこはろくに作物も取れぬ不毛の地であり、人はそこを「絶望の地」と呼ぶ。
「金がいない。やることもない」
当然、住む者はいない。唯一の肉親であった父親の早逝により十年間独り暮らし。常識やら貴族の礼儀やらを教わる余裕もなく、口下手で語彙力なし、更には鉄面皮。言ってしまえばバカで知識もないコミュ障な野生児。やる事もなく、領地にある謎の大穴目指し飛んでいくドラゴンを狩猟したりする日々。
「―――俺は君をずっと待っていた」
そんなある日、噛み合ってはいけぬ歯車は噛み合ってしまう。人間の敵である魔族、その種族の一つであるエルフの女王、ユーリカ(表紙右)がドラゴンに襲われているのを助け。そもそも魔族は敵という暗黙のルールすら知らず、言葉足らずながらも一緒に暮らさないかと伝えたら。 何を読み違えたのか、ユーリカはアッシュが世界征服を望んでいると勘違いして、アッシュもその勘違いに気付かず。そのまま動き出してしまったのだ。
ユーリカ及び彼女の部族を領民として迎え。勘違い癖はともかく、ユーリカは為政者としてもそれなりのレベルだったため、領地の改革が始まり。出入りの商人の娘、ジョゼ(表紙左)も商機を感じてやってきたら、ユーリカにより引き込まれる事となり。アッシュの知らぬ所で、密かに世界征服に向けての準備は整い始める。
当然、共に営む生活の中でユーリカやジョゼ側からの思いが高まっていって、アッシュとの間で一線を越えていく事態となって。その事態に水を差すように領内の鉱山の盗掘事件が発生し、ユーリカとジョゼが拉致される事になってしまい。愛しい者を守る為、盗掘者に見せかけた他領の軍隊へとアッシュは立ち向かい、守る為の力で事態を解決して見せる。
「いつか彼の者が戻ってくるまで、この玉座を温めるだけの存在」
しかしアッシュはまだ、知らない。この王国を起こしたのは血筋の初代で、「絶望の地」には「災厄」と呼ばれる何かを封じとどまったのが始まりという事。それを当然知っている筈だと、王に思われてると言う事を。
ダッシュエックス文庫らしい真っ直ぐなハーレム、その中でドタバタと勘違いものの面白さがあるこの作品。笑いつつハーレムを楽しみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
Amazon.co.jp: 領民ゼロ領主の勘違いハーレム。 ―エロいことがしたかっただけなのに、世界征服することになってたんですけど― (ダッシュエックス文庫) : 火野 あかり, カグユヅ: 本