読書感想:囚人諸君、反撃の時間だ

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は「白鳥由栄」という人物をご存じであろうか。歴史の教科書に載っているような人物では多分無いので知名度は低いと思われるので簡単に説明するのならば、「昭和の脱獄王」と呼ばれた人物である。その脱獄ぶりはそれぞれ調べていただくとして、監獄というのは国によって内部が違うものであるし、国によって中で何が出来るのか、というのは異なってくるものなのである。

 

 

とある異世界の魔族の領地と接する帝政国家、エタリオン。かの国の皇帝になるには十年に一度行われる皇帝選定戦によって決められる。その戦いに向け候補者の一人である、英雄の息子の一人、ライアン(表紙右)は母親を奪った魔族への憎しみを燃やしながらも人助けに励む中。自宅で賢者の一人が殺害されていたと言う状況に遭遇し、まるで何者かに嵌められたかのように冤罪で逮捕されてしまう。

 

「こんな場所、すぐに! 一瞬で!」

 

 裁判の中明かされるのは彼が魔力を持たぬ者、「絶唱者」であるという真実。危うく死刑になる所を、「魔女」の一人であるアデルに気に入られ。彼は彼女が支配者である魔術犯罪者を収容し矯正する「アインズバーグ監獄学園」へと送られる。様々な事をして手に入る「贖罪値」が重要となるこの学園で、魔族差別主義者であるアーサーにイジメを受けたり、幼馴染であるロルと再会する中。彼へと声を掛けてくる存在が一人。魔族の裏切り者と呼ばれる姫、ルナーラ(表紙左)である。

 

「貴方、私と協力関係にならない?」

 

気紛れで一度だけ貸した手、その助けもあり為した成果に自分の理想を叶える光明を見つけ彼へと協力を持ち掛け。魔族は憎いけれど一先ず一番信用できるのは彼女という事で契約を結び。ルナーラの協力の元、ライアンは魔力を得る契約を己の身に刻む。

 

「私をもっと貴方に惚れさせて」

 

ルナーラと魔力を共有し、更に強くなるために求められるのは彼女と心を繋ぐこと。仕方は無しに彼女と行動を共にする機会が増える中。実は自分と同じく冤罪である、という真実を知ったり。人間の世界のケーキに瞳を輝かせると言う意外とかわいい面も目撃したり。今まで憎い存在として見るだけであった魔族への見方が変わっていく。気が付けば、彼女に心を許し始めていく。その繋がりが新たな力を呼び覚ませど、最後の一線だけは心が超えさせようとしない。

 

それは本当の意味での力を得るには能わず。だが試練はすぐに襲い掛かってくる。迷宮にて再び巻き起こるアーサーとの決闘。その裏で囚人たちに牙を剥くのは、人間の中に潜入していた魔族達の策略。

 

巻き起こる暴虐、その中で判明するのはライアンの、そしてルナーラの冤罪の真実。もはや誰も信じられぬ、誰を信じればいい?

 

「俺を信じてくれる奴のために戦いたいんだ!」

 

違う、信じられるものはここに確実に一つある。虚しいものを追いかけるばかりであった自分では気づけなかった大切なもの。その存在を受け入れた時、繋がりが生み出すのは新たな魔術。

 

「そのついでに人類と魔族の再統一くらいしてやるよ」

 

『首を洗え、旗を掲げろ。―――囚人諸君、反撃の時間だ』

 

 そして彼は、新たな夢を見つける。一つではなく全てを掴む、ついでにルナーラの夢も叶えていく見果てぬ夢を。その心から出る宣戦布告が響く時、始まるのである。彼らだけの反逆譚が。

 

超王道、全てが魅力に満ちているこの作品。ファンタジーの大家の方々が絶賛されるのも納得である。そんな真っ直ぐな面白さを楽しんでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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