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読書感想:転生ごときで逃げられるとでも、兄さん? - 読樹庵 (hatenablog.com)
一年と五カ月。かの邪神系ヤンデレ妹と我々が邂逅し、心にとんでもない傷をつけられてから経った時間である。あの頃、心につけられた傷は癒えたであろうか、画面の前の読者の皆様。では癒えられたのならば、またこの世界に飛び込んでみよう。かの邪神系妹がどこかに潜んでいる世界へと、飛び込もうではないか。
だがその前に、今巻においては少しだけ安心してほしい。一応、今巻はあの邪神が如き妹の襲来は無い。最悪の事態は起きはしない。僅か一歳にして負けたら人生の終わりというとんでもないハードモードな死闘を繰り広げた後の八年。ジャックの元に妹の影はなく気配もなく、幼馴染であるフィリーネと共にラケルの元で修行する、平和な時を謳歌出来ていた。
だが、忘れてはいけぬ。かの妹は絶対に、まだこの世界の何処かにいる。滅んではいない以上、確実に生きている。前回の反省を生かし、今度は自信を押し殺しながら息をひそめて。その影だけで作品の舞台に緊張感を齎しながら、どこかで生きているのである。しかし今巻の本題はそこではない。大切なのは、ジャックのかねてからの願いであった王立精霊術学院への入学である。
そこは和気あいあいとした楽しげな学び舎か。否、そんな生温い場所ではない。
そこは、神童達が互いに互いを蹴落とそうとする闘争の場。僅かな椅子、その先の更に狭き門を目指し、大切なことを怠ればすぐに淘汰され脱落していく、正に蟲毒の壺とでも言わんばかりのそれぞれの思惑の暗闘が交わされる修羅の世界。
そんな世界に、数年に一人の逸材として入学したジャックは否応なく注目を集め、自分以外の神童達と出会っていく。
貴族の子女であるアゼレア(表紙)、国の王子であり「精霊の止まり木」でもあるエルヴィスを始めとする、生涯の友となる筈の学友たち。
「「―――誰よりも強くなりたい」」
「「お前より、俺のほうが強い」」
しかし、仲良しこよしで同じ道を歩く事など出来はしない。出来る事は只一つ。己の力で人脈を築き相手を調べ戦う前から作戦の罠に嵌め、真正面からぶつかり合う事のみ。
だが、それでよいのだ。学友であり好敵手。敵であり競争相手。故に、相手の事を真っ直ぐに見つめる、理解できる、分かり合える。だからこそ敬意を以て全力で。強さを求めて集ったのならば、躊躇わず全力で戦う事こそが礼儀で友情。
だからこそ、この得難き才能同士の真っ向勝負が。眩き輝き同士の激突が。何よりも熱くて面白いのだ。
前巻を楽しまれた読者様、今度は王道ファンタジーが好きな読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
転生ごときで逃げられるとでも、兄さん?2 (MF文庫J) | 紙城 境介, 木鈴 カケル |本 | 通販 | Amazon