読書感想:異界心理士の正気度と意見 1 ―いかにして邪神を遠ざけ敬うべきか―

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SAN値チェック。この言葉を聞いた事のある読者様は果たしてどれだけ折られるだろうか。もし聞いた事が無い方は、ニャルラトホテプやクトゥグア、イタクァ。ダゴンにアザトースなんて神の名前を聞かれたことはあるだろうか。

 

そう、クトゥルフ神話である。画面の前の読者の皆様の中にも、どこかのニャル子さんか神を討つ機械仕掛けの魔神辺りのお話で触れたことのあられる読者様もおられるだろう。が、しかし。この作品における邪神は前述した二作品のように、生温い存在ではない。寧ろ本物の邪神である。邪悪な神と書いて邪神と読み、自らの願いの為に人に結果的に危害を加えてくる存在である。

 

 ではそんな邪神達は何処から来るのか。彼等の故郷である異界か。否、異界から来るわけではない。彼等は人類の生存圏のすぐ近く、江の島からやってくるのだ。

 

 一体どういう事なのか。それはこの作品における日本は、現代から数えて八年前に江の島に邪神が突如として上陸し、鎌倉周辺が「異界」と呼ばれる領域に沈むと言う衝撃的な世界となっているからである。

 

 邪神達が人々を狂気に引きずり込まんとする世界で重要な仕事、それは心理士。企業専門の心理士である純(表紙中央)は日々仕事に邁進する中、邪神絡みの事件に巻き込まれた事を切っ掛けに、異界専門の心理士、偃月(表紙左上)と出会う。

 

彼に出会い、人ではないものから好かれやすいと断言され。その時から純は、数々の異界絡みの事件へと巻き込まれていく事となる。

 

偃月との出会いの切欠となった、落ちぶれた高名画家と、彼に力を授けたユゴス星人の思惑が絡まった事件。

 

相談を持ち掛けられ、偃月とその知り合いである刑事、涼牙を巻き込む事になった、怪しいセミナーの裏にダゴンの者達のおぞましき思惑が隠れた事件。

 

偃月と因縁のあるピエロと狐憑きとなった少女が関わった、過去と今を行き来する事ととなった事件。

 

そして、偃月が一人で挑む事となった、彼に取って因縁のある物を取り戻す為の、神を呼び出そうとする者達の思いがこもった事件。

 

 いずれも、そこにあるのは邪神の人間達を嘲笑い自らの側へと引きずり込まんとするかのような思惑である。だがそれだけではない。そこに付随して描かれるのは、邪神に惹かれ狂気へ堕ちた人間達の狂気と、それを齎す一因となった人間社会への黒い風刺である。

 

例えば、ダゴンの関わった第二の事件。それは人間達の狂気への憧れと人間社会への失望があったからこその結末が招かれた。もし人間社会がもう少しましであったのならば、何か変わったのかもしれない、その結果も。

 

「神は邪神であれ、冒涜してはいけない。理不尽だろうと、そういうものだ」

 

 だが、そう思い邪神に感情を向ける事もまた、邪神へ対する冒涜となるのかもしれない。なればこそ、どう邪神と付き合っていくべきか。この狂った世界で、どう正気を保つべきか。

 

聞くも見るもおぞましい、狂気と怪異の溢れる邪神の世界。かの世界を覗いてみたいという方は、この作品を読んでみてほしい。

 

ただし、引き込まれぬようにご注意を。それは自己責任であるがゆえに。

 

異界心理士の正気度と意見 1 ―いかにして邪神を遠ざけ敬うべきか― (HJ文庫) | 水城正太郎, 黒井ススム |本 | 通販 | Amazon