さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は「バケモノの子」、という映画をご存じであろうか。かの作品、個人的には正に名作と言っても過言ではないと思うのだが。という話題はともかく、人間が人間以外の存在に育てられた、というのは実は現実世界でも例が存在する。そして創作の世界で人間が、人間以外に育てられるとどうなるのか。往々にして人間の範疇からは逸脱した力を持つのである。
「十年じゃ済まない時間を生きてる気がするんだけど?」
この作品における主人公、ティスピン(表紙中央)もその例に当てはまる存在である。彼女は何に育てられたのか。それは題名にもある通り、ドラゴンである。
かつてあったとされる、創世神と破壊竜の戦いにより、一つの大陸が五つの大陸に分かれたとある世界。東西南北をそれぞれ別の種族が支配する大陸に囲まれた中央、そこは人跡未踏の人外魔境。かの世界に赤子の頃に捨てられていたティスピンは、神話の破壊竜であるラキ(表紙中央右)と、そのお目付け役であるスピカ(表紙中央左)に拾われ。彼等にすくすくと育てられ、この魔境で生き延びる術を教えられ。しかし人間の使う術である精霊術は何故か、効果的に使うことは出来ず。打開策として本格的に学ぶ為に、人間世界への引っ越しを決意する。
「二人とも視線を逸らしながら言い訳しないで!?」
ラキとスピカと共に家族として、人間の世界で始まる新たな生活。しかし、そろそろ画面の前の読者の皆様もお察しであろう。この二人、というか二体は保護者としては最強すぎる存在であり、その二人に戦う術を学んだティスピンが弱いわけがないと。
その力は正に圧倒的、精霊魔術は使えずとも、竜の魔術はその身に宿り。代替わりしたばかりの精霊王を軽々吹き飛ばすくらいの力を見せる。
無論、強いばかりではない。魔法学校の先生のコロン(表紙左上段)、初めての人間の友人であるリタ(表紙左中段)、エミリー(表紙左下段)と仲良くなり。謎の商人、ロニー(表紙右下段)や謎の占い師、ディア(表紙右上段)といった大人達に注目され。人間として初めて、種族としての当たり前の日々を過ごす事で、彼女はどんどんと常識を掴み、人間らしくなっていく。
だけど日常は、賑やかなばかりでは終わらない。時に山中で襲い掛かってきた強大な魔物をぶちのめし、精霊王に力を見せつけて土下座させたり。友人を攫った盗賊のアジトに乗り込み、大立ち回りを繰り広げたり。
「わたし、魔法使いだったんだ・・・・・・」
その手の中、成りたかったものは既に。その道の先、待っているのは見果てぬ未来なのである。
王道で真っ直ぐな要素がどどんとこれでもかと描かれてるからこそ、真っ直ぐに面白い今作品。綺麗なファンタジーを楽しんでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
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