読書感想:お嬢様(じつは庶民)、俺の家に転がり込む

 

 お金が欲しい、切実に。そう思われる読者様は少なくないかもしれない。しかし、一般人が大金を稼ぐというのはだいぶ難しいものがある。例えばyoutuberになる、のも既にレッドオーシャンと化したそこでは大成するのは難しく、ビジネスを始めたとしても成功できる可能性の方が低いのかもしれない。では一攫千金の代名詞である宝くじ、と言っても回収率の方がすこぶる悪い。結局のところ、まじめにこつこつ働くしかないのである。

 

 

そんな一般人とは違い、上流階級と呼ばれる人達がいる。そんな人達のイメージというのはそれぞれかもしれない。そんな上流階級を舞台にしたラブコメが今作品なのである。

 

「さて、引っ越すか」

 

主に資源採掘と建設業で名をはせた大企業、雑賀グループ。その御曹司である玄次郎は新学期初日、驚天動地の事態に陥っていた。多額損失の責任を取って社長である父親が辞任し資産の処理を始め、具体的に言えば会社の倒産により一文無しとなった。しかし生来身に着けた「位高ければ徳高きを要す」の精神により前向きさを忘れず、一先ずゼロから歩き出そうとしていた。

 

「わたしを立派なお嬢様に育ててほしいんです」

 

そんな彼の元に一つの出会いが訪れる。新学期初日に遭遇した後輩である玲(表紙)。母親がアラブの石油王と再婚した、という驚愕なウルトラCにより一晩にして上流階級となるも、アラブにいった母親と別れ一人暮らしを始めようとした彼女。義姉となったアラムと共に、玄次郎の祖父を訪ねてやってきた彼女は、彼と屋敷で同居する事となって。彼に、上流階級と言うものを教えて欲しいとお願いしてきたのである。

 

 

勿論彼女は、上流階級の事など何も知らない。無論パーティなんて出た事もないし、ましてや上流階級の遊びなんてやった事もない。対し、玄次郎は一般庶民の生活を知らない。人気のゲームもやったことがないし、料理を自分で作るもの、という認識すらない。

 

正に元から対極にいて、今も対極にいるこの二人。そんな二人は同居生活を送る中で少しずつ、距離を縮めていく。TVゲームに玄次郎が四苦八苦したり、玲が間違った上流階級の知識で暴走してしまったり。学校に転校生としてやってきたアラムと、玄次郎の元許嫁である薫子を交え。日々を賑やかに過ごしていく。

 

「先輩の・・・・・・本当に大切な人になりたいです!」

 

そんな日々の中、腐る事もなく玄次郎の精神は高潔なままに、例え今は庶民となっても、その高貴たる精神を忘れずに。彼の隣、玲の思いは少しずつ変化していく。憧れ、目標の意味での好きが、少しずつ変化していくのである。

 

賑やかな中に、一本筋の通ったラブコメが展開されている今作品。日常系ラブコメが好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: お嬢様(じつは庶民)、俺の家に転がり込む (ファンタジア文庫) : 八奈川 景晶, さまてる: 本