読書感想:海鳥東月の『でたらめ』な事情3

 

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読書感想:海鳥東月の『でたらめ』な事情2 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻まで読まれている読者様であれば、この作品のでたらめな面白さ、というのはご存じであろう。では今巻では一体、何を描いていくのか、と言うとであるが。今巻は「嘘殺し」、ではなく東月と芳乃の関係にちょっと深堀を入れていく巻であり、東月の家庭関係も明かされていく巻である。

 

 

「私の部屋も、随分賑やかになったな~って」

 

いつの間にやら東月の周りには、でたらめちゃん始め、人外の個性的すぎる美少女が集い、早くも夏休み。そばめしパーティを開催し盛り上がる中、東月の元にかかってきた電話。それは疎遠となっている、姫路にある母親方の本家からの電話であり、いい加減に一度帰ってこなければ、強制的に連れ帰ると言うもの。

 

「私にはもう、お母さんのこと、よく分からないから」

 

どこか渇いた様子で、実家にいる保護者である母親の事を話す東月に、思わず芳乃は同道を申し出て。だがそこに水を差すように、新たな「嘘」、姫路名物が加古川名物になっているという「嘘」が現れる。

 

とりあえずそちらは、でたらめちゃん達が対処する事となり、本家に向かう東月と芳乃。本家のあまりの大きさに圧倒され、東月の母親である満月との妙に希薄な関係に首を傾げ、だが満月がどこかへ行方不明となっていたことにより、結局会うことは出来ず。

 

「まあ、普通に絶縁するんじゃないかな」

 

だがそれを気にしている余裕もなかった。思わず盗み聞きしてしまった、東月と祖母、新月との会話。その中で垣間見えた、「友人」ではなく「仲良し」という関係の歪さ。その関係に基づいているからこその東月の歪んだ認識に、言い知れぬ怒りが巻き起こり。芳乃と東月の間の関係には亀裂が入り、そのままに皆で過ごす夏祭りの時を迎えてしまう。

 

祭りの場で待っているのは何か、それはでたらめちゃん達の「嘘殺し」の裏での、東月の母親である満月との出会い。何故東月がこうなってしまったのか、という過去のルーツの判明。そこにあるのは神月から満月、そして東月へ繋がる思いの遺伝。不器用でぶっきらぼうな者達だからこその、中々解消できぬすれ違い。

 

その裏で東月はひょんな事からカウンセラー風の男と知り合い、助言を貰い。今一度、向き合うことを決め、満月と一緒に居た芳乃の元へと駆けつける。

 

「キミの中で、どれだけ簡単な女なのさ、私は」

 

仲直りの切り札は只一つ。それは「仲良し」だからこそ、「普通」ではないからこそのもの。だけどそれが何より効果的。

 

もう一度仲良しになる二人。だがまだ彼女達は知らぬ、カウンセラー風の男、「泥帽子の男」がこの街で「祭り」を起こそうとしている事なんて。

 

果たして大乱が予期される中、嘘殺しはどうなるのか。シリーズファンの皆様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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