読書感想:ロストマンの弾丸3

 

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読書感想:ロストマンの弾丸2 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻でロストマンズ・キャンプと言う悪徳の町に「ビークヘッド」としてその名を売り始めた未那であるが、彼女は未だ、本当の意味でヒーローではない。では彼女がヒーローになるならば、一体何が必要なのか。その答えは只一つ。本当の意味でヒーローになるのならば、覚悟を決める事、そして背負う事。誰かの希望、だけでは足りない。皆の希望とならなければ、ヒーローとは言えないのである。

 

 

「・・・・・・そうきたかぁ」

 

前巻の騒動から少し経過し、成長していると言う実感が本人にないままに、本日も治安維持に励み、桐乃からお小言を貰う未那。その身から出た錆を何とかする為に、桐乃から握手会への出席を要請され。自分の通う学校の者達がそこに来る、特に親友である操が来ると言う話に一抹の不安を覚えながら。活動の一環として、未那は握手会へと臨む。

 

「わたし、釘宮東を探します。探し出して、必ず殺すの」

 

 が、しかし。それが簡単に終わる筈はない、というのは画面の前の読者の皆様も何となくお察しであろう。握手会を襲撃してきたのは、東の親友夫婦であり彼への復讐を誓う少女、フォーツー(表紙右)。先に出会い友誼を結んだ彼女に本気になれず、彼女が暴れるのを許してしまい。その戦いの中、自身の正体が操にバレてしまう。

 

隠していたものが露呈すれば、すれ違ってしまうもの。操にかける言葉がなく、想い人である東は自身に課したルールに基づき、復讐を受け入れると嘯き。心揺れ戸惑う未那。そんな彼女を支えてくれるのは、母親代わりであるマーサ。秘密の悪戯に彼女を誘い、優しく諭し。改めて操と仲直りした未那は、東の元へと向かう。

 

「私が、あんたのことが好きで、生きていてほしいからに決まってるでしょう!」

 

未練もないと言わんばかりの彼に、自身の思いを押し付けて。胸ぐらをつかんで真っ直ぐに言葉を叩きつけ。翻意を促す事が何とか出来た未那へ、街の行方を左右する前堂の企みが明かされる。

 

それはフォーツーを恐怖の旗頭にした、新たなワンマンの秩序を打ち立てる為の計画。無論、そんな事を許すわけにもいかない。求められるのは何か。それはフォーツーを打倒し、希望の旗頭となる事。

 

 

「まだいくらだって残ってる。君のための素晴らしいものが、ここにはたくさんあるんだよ」

 

だが、フォーツーを打倒したとしても、殺すわけにはいかない。他の生き方を知らぬ、ある意味純粋な彼女は未だ世界を知らぬ。父親が遺した、その愛が生み出した街が彼女を待っているから。

 

「―――私はヒーローになる。今日からこの街は、私が守る」

 

そして、救うべきは彼女だけではない。前堂とて、道を間違えただけの只のオトナ、敵であるも、単純な敵ではない。

 

その事実を目の前に、恐怖を乗り越え。未那は自身の胸の中、希望と言う名の弾丸を前堂へと突き付ける。自分が希望になる、全て守って見せる。何もかもを覚悟の上で背負い込む、今ここに本当の意味で「ヒーロー」が生まれたのである。

 

何も変わらぬように見えて、気付かぬ所で何かが変わりだす。だけど、この街には全ての答えがある。未那が守った光が息づいている。

 

「ハァイ、なんだかマスクの評判が悪くてさ、思いきってデコろうかと思うんだけど、今期のトレンドってなんだっけ?」

 

今、彼女の目にはこれまで見えていなかった希望が見えている。その希望を一つずつ拾い集め、「いつも通り」に進んでいく。この街に根差したヒーローとして。

 

硬派で重厚、骨太な面白さのある今巻。どうか最後まで楽しんでみてほしい。

 

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