読書感想:海鳥東月の『でたらめ』な事情4

 

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読書感想:海鳥東月の『でたらめ』な事情3 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、この巻の感想を書いていく前に先にお話しておかねばならない。この作品は今巻で最終巻である。しかし最終決戦の顛末まで描かれないという事を。最終決戦までの道筋を描き、あとは我々読者の想像にお任せすると言う手法を取る。この状況ではしごを外すなんて、と言いたくなるかもしれない。しかしその「でたらめ」さもこの作品ならでは、と思えば寂しさも減るのかもしれない。

 

 

では今巻では何が描かれるのか。それはでたらめちゃんが生まれた理由。そしてかつての主が誰であったのか。その生い立ちの理由にまで絡みついている、黒幕の思惑である。

 

「本当に、何を考えているのかしら、泥帽子さんは」

 

東月達も暮らす街、横浜に集められたのは「泥帽子の一派」の中核メンバーたち。彼により見出された「嘘憑き」達の中でも、とびきりの危険な面々。

 

「どうしても海鳥さんに、私から、お話しないといけない事があるので」

 

そうとも知らず、何か東月に伝えたいことがある様子のでたらめちゃんは彼女をデートに誘い。半ば強引に同じファッションをさせたり、自分の夢を語ったり。今までぶっ飛んだ日常ばかりだった中で久しぶりの穏やかな時間は訪れるも、やはりそれは長くは続かなかった。

 

「―――一言で言うなら、俺の『夢』です」

 

謎の幼女、白薔薇の謎の術で東月を人質にされるも特に何もされるという事はなく。泥帽子に連れられ、中核メンバーが集まる場所へ案内された彼女達は泥帽子から、「泥帽子カップ」というお祭りを開くと言う宣言をされる。それは抑圧から解放される夢。泥帽子にひいきされる一人を決める為、横浜の街を舞台に中核メンバーたちが激突し合うと言うもの。当然、この街は無事では済まない。そして中核メンバーが集まって殺し合うのならばこちらにとっても好都合。宣戦布告をし返した途端、中核メンバーの一人であるネムとその嘘である空論城により何故か東月は連れ去られてしまう。

 

「ウミドリさんは、この先ずっと私といるの」

 

有名な小説家である彼女は嘘の付けない読者という名のペットである事を彼女に求め。当然救わねば、と綺羅々により芳乃が駆り出され。だが、実は綺羅々の祖母であった白薔薇の妨害に遭い、芳乃は一人東月の元へと駆ける。

 

その後を追いでたらめちゃんも急ぐ中、目の前に立つのは泥帽子の男。彼が明かす彼女の秘密、それは主も彼女も巻き込まれた大勢の中の一人であったという事。彼の興味の果て、試行錯誤の果てに生まされた被害者のようなものであるという事。

 

「これからも、どうぞよしなに、ですよ? 海鳥さん」

 

だからこそ終わらせる、自分も含めて。だけど東月の予想外の言葉に毒気を抜かれ。またでたらめちゃんは嘘をつき、決戦へと向かっていくのだ。

 

本音と嘘、決して並ばずとも混じることは出来るのかもしれぬ。二つが混ざる未来は、きっとある筈である。最後まで皆様も見届けて欲しい。

 

海鳥東月の『でたらめ』な事情4 (MF文庫J) | 両生類 かえる, 甘城 なつき |本 | 通販 | Amazon