読書感想:公務員、中田忍の悪徳4

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:公務員、中田忍の悪徳3 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

(※注:今巻の感想は前巻のネタバレ全開でいくことになるので前巻をまだ読まれていない読者様は、前巻までを読み終わりましてから今巻の感想をお読みください)

 

 

 

さて、そもそも私達はアリエルを「エルフ」というカテゴリに入れて見て話をしている訳であるが、そもそもアリエルは本当にエルフなのか? 前巻の最後、届けられたとんでもないブツ。そこからアリエルの本質に迫り始めるのが今巻なのである。

 

前巻の最後、忍の元に届けられたアリエルのパスポート。しかし届けられたのはそれだけではなかった。徹平の家にはマイナンバーカード、由奈の家には国民健康保険被保険者証、義光の家には実印と思しき印鑑と印鑑登録証、そして環の家には帰化省の身分証明書。まるで忍の仲間を全て知っていると言わんばかりに、それぞれの家にアリエルの身分を保証するものが届く。

 

住民基本台帳そのものが改竄されているのだろうな」

 

 そして住民票が示すのは既にアリエルが「河合アリエル」として、忍の同居人となっているという公的扱い。だがそれが示すのは根本的な恐怖。当たり前である。何故ならそれは「公的機関のデータベースを自由に改竄し、インターネット通信を常時監視している」、もはやどこのラスボスだと言わんばかりの存在を示唆していたのである。

 

その事実を前に、守るべき者を持つ徹平は離脱し、更には由奈は遠ざけられ義光も距離をとり。チーム中田忍は解散の危機を迎える。

 

更には環の提案により異世界エルフの生態を解き明かす事を目指し。義光の口八丁の力を借り閲覧した、郷土資料館の秘密の資料。耳神様を表したと思しき謎の絵に描かれていた狂暴な力を、あやうくアリエルは発現させかける。

 

「俺はさよならが苦手だ、アリエル!!」

 

 その力と、環が提言した出自の可能性。それが示すのはアリエルが保護すべき対象ではなく、駆除すべき人類の脅威であると言う事。その事実を否応なく、これ以上ないまでに正しく認識しながらも。いつの間にか別れを嫌に思っていた忍は結局放り出す事も出来ず。これまで通りアリエルを保護することを決める。

 

だがしかし考えるべきタスクが増え、取るべき手間が増えると言うのは、忍の日常に関するキャパシティーを削ることに異ならない。瞬く間に余裕をなくしていく忍の歯車は徐々に日常の歯車を狂わせ始め、小さなミスが増えていく。

 

「君でなくてはダメなんだ」

 

「今日から私が、中田忍の悪徳になります」

 

 そんな日常を助けてくれるのは誰か、もっとも頼れるのは誰か。自分を見つめ直し、自身の論も曲げて忍は由奈に頭を下げ。だがその選択に歪さを感じた由奈は一度否定した後、自分の言葉で答えを告げる。「悪徳」を持つ忍の心の奥底にだからこそ届く、色恋などにはならぬからこその言葉を毅然と告げる。

 

もう一度纏まるチーム、不器用に始まるアリエルの学習の次のステップと、社会に馴染む為のステップ。第二章開始と言わんばかりに、物語が動き出す今巻。シリーズファンの皆様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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