読書感想:公務員、中田忍の悪徳5

 

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読書感想:公務員、中田忍の悪徳4 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻で謎の存在、仮に「存在X」とでも呼称すべき存在により、アリエルは現代日本での居場所を得た訳であるが。その問題を中田忍達が考え続けるか、と言われればそうではない。今考えるべき喫緊の問題でもなく、そこは考えても答えも出ないし想像もつかないものであるから。ではここから何を考え始めるべきか。それはアリエルの自立。この世界に本当の意味で根付くための道である。

 

 

しかし画面の前の読者の皆様、こうは思われた事はないであろうか。それは忍達の思いであり、アリエル自身はどう思っているのか、という事を。彼女の思いも尊重する、それが本当の意味での自立に繋がるのではないか、という事を。その辺りも描かれていくのが今巻なのである。

 

「これで終わりかと訊いている」

 

職場にアリエルを保護しているのがバレるも、上司からはほんのりとしたお許しを貰い。自身の抱える摘発事案がとん挫した茜の本心を引き出し、引き続き仕事に取り組ませ。いつも通りの日常が続く中、アリエルに現代日本の常識を叩き込まんとする忍は、その一歩としてアリエルを、恒例の宴会へと誘い。気のいい忍の仲間達に可愛がられ、忍達の過去も目撃し。アリエルの中、何かが芽生えんとしていた。

 

「アリエルは、思い出を、お話します」

 

「彼女には近々、この家から出てもらう」

 

 芽生えた思いから話されるのはアリエルの過去。異世界人の被造物として創り出され、勝手に役目を背負わされながらもそれを果たせなかったという記憶。その記憶を聞き、忍は異世界人と同じ悪徳を果たさぬ為、真の友誼を結ぶ為。アリエルに早急に一人暮らしをさせる事を決める。

 

「中田忍の困らせ方、教えてあげる」

 

それを受け入れその方向で進みだす大人達、自身もまた受け入れるアリエル。だが環だけは違った。それは子供ゆえに、全てを素直に発露できる子供ゆえの異議。その異議が、アリエルの本心を引き出し。由奈はアリエルに、忍を困らせる為の策を授ける。

 

 彼を困らせるには、彼に意見を届かせるにはどうすればよいのか。感情論では彼は動かぬ、ならば彼と同じ土俵に立てばよい。彼のやり方に則った形で、必死に文字にして彼に意見を届ける。

 

「たまにならば、悪くない」

 

初めての我が儘、初めて負かされる、アリエルに。けれどたまにはそれも悪くない。きちんと改めて向き合い、アリエルの悪徳を受け入れ。二人の新たな関係は始まるのである。

 

さて、今まで通り、けれど新たな関係を始めた事でこの作品はどう動いていくのか。この先も楽しみにしたい。

 

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