さて、画面の前の読者の皆様もきっとご存じであろうし、プレイされている読者様もおられるかもしれないが、今、「ウマ娘」は大人気である。推しのウマ娘がおられるという読者様も多いのではないだろうか。では、実際の競馬の世界を知っている、触れているという読者様はどれだけおられるであろうか? 画面の前の読者の皆様は「競馬」というものにどんなイメージを抱かれているであろうか?
競馬場、または馬券売り場で競馬新聞片手にレースを見つめ、一喜一憂する大人達。そんなイメージを抱かれている読者様もおられるかもしれない。しかしそれは「外側」のイメージと言えよう。
では「内側」、競技者達の世界とは? そこは不公平に過ぎる実力とネームバリューがモノを言う正に生き馬の目を抜く、競争の世界。そんな世界を描いているのがこの作品である。
かつて最年少で日本ダービーを制するという栄誉を掴み、しかし栄光と共にとあるトラウマを背負い。その後全く勝てなくなり、厩舎員の少女、キアラ(表紙中央)と共に働きながらも燃え尽きた余生を過ごす、「ブービージョッキー」、颯太(表紙左)。
「颯太くん、わたしの馬に乗ってくれますか!?」
そんな彼の元へ、二人の「セイラ」がやってくる。一人は聖良(表紙中央右)。フリーのトレーダーであり新米馬主。もう一人、否、一頭の名はセイライッシキ(表紙右)。颯太の拭えぬトラウマの相手、ダービー馬のインコロナートの全妹であり、未熟で未発達な中に無限の可能性を秘めた競走馬。
聖良にセイライッシキに乗ってほしいとお願いされ、セイラと共に出場したレース。圧倒的な彼女の力を目撃し、その心に再び熱の欠片が灯り。今まで受け取れなかった免許を聖良に預け、彼女にマネージャーへの就任を依頼し。キアラも含め、三人四脚でセイラと向き合っていく。
人と共存できぬ馬は消えゆくのみ。だとしても、セイラを消したくはない。己のミスで彼女を傷つけ、けれどそれでもと。嵐の中で彼女と向き合い、もう一度心を繋ぎ。颯太とセイラは因縁の好敵手が待つ、レースの舞台へと立つ。
好敵手は何れも強敵ばかり。対するこちらは未熟者コンビ。
「約束です。あなたのために勝ってみせます」
だけど、負けたくはない。誰よりも輝きたいから。そして戦乙女のような相棒と共に、勝利を届けたい女神のような女性がいるから。
始まるレース。先を行く好敵手達。
―――さぁ、ここからだ。ここからが彼等の本領発揮だ。
「―――もういいよ」
己の壁をぶち破り、風も音も光も追い越して、勝利のその先へ。何度だって。人馬一体、誰も見た事のない景色のその先へ。
枷を壊し、君と夢を駆ける、どこまでも。忘れられぬ奇跡、見せてやれ。
解き放つは鎖、上げるは新たな騎手としての産声、そして彼女へ捧げる戦場の挽歌。
限界だって超えて見せて、全力のその先へ。誰も知らぬ明日へと、その果ての景色は何よりも輝く。
嗚呼、なんて熱いのだろう。何故、こんなにも心にこみあげるものがあるのだろう。それはこの作品が、正に文句なしの面白さを持っているから。心の底、誰もが秘めた原初の部分に火をつける熱さを持っているからだろう。
故に私は断言したい。正に今、このラノベ界に「最高」で「極上」の作品がまた一つ生まれたのだ、と。
心をこれでもかと燃やしたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。