読書感想:あなたの事が好きなわたしを推してくれますか?

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は「推し」というものを持っておられるだろうか。 推し活、というのは心の栄養であると誰かが言った。実際、私もこうしてラノベの感想を書いているのも一種の推し活なのであるが確かに充実していると言える。そんな活動、ひいては推しと言うものに真っ直ぐ向き合い描いていくのが今作品なのである。

 

 

もし推している存在に、自分もまた推されていたら。貴方はどうされるであろうか。

 

ごく普通の少年、と言えるのかは知らぬがとあるチーム制のバトロワFPSに首ったけでハマっている少年、啓太郎。そのゲームのプレイ動画を配信するチャンネルを運営しているものの、まだまだ底辺。しかし一人の熱狂的なファンに支えられ、頑張る日々。彼には二人の推しがいた。その一人は大人気アイドルの「ゆき」ことのぞみ(表紙)。もう一人は大人気Vtuberの「堕天院マリエル」。推し活をしながら動画配信を頑張る日々の中、彼はゆきが出演するトーク動画を見る事となる。

 

『実は私、大好きなゲーム実況チャンネルがあるんです・・・・・・!』

 

 その動画の中でゆきが挙げたのは、自身のチャンネルの名前。影響力がある彼女がその名をあげたのならば効果は絶大。あっという間にトレンドに上がり、更に知名度も上がり。更にはのぞみと自分が級友であると、のぞみにバレた事で学校で彼女の限界推しぶりを見る事となり。彼もまた彼女を推している、と告白した事で他の者とは違う関係となる。

 

「けどやっぱりすごい偶然だよな。お互い知らずに推してたなんてさ」

 

更にマリエル本人からコラボのお誘いがあり、リアルで会う事となったら、実は彼女が四年前に疎遠になった幼馴染、芹香であると判明し。もっととでも言わんばかりに、半年前に出来た義妹である紗菜が実は伝説級のコスプレイヤーである「サナ」であり、更には啓太郎の事が推しであると判明し。あっという間に彼は三人の少女から推される事となる。

 

そしてここまで言えば、そろそろ察しの良い画面の前の読者様であればお分かりであろう。彼女達がそれぞれ啓太郎に想う所がある事は。だけど好敵手である前に、同じ相手を推す同士として。推しである啓太郎の話で仲良くなったり、四人で出かけたり。彼を中心としてちょっと不思議な絆を深めていく。

 

しかし、その急激な変化は啓太郎の中に小さな狂いを起こさんとしていた。急に推されるようになったのならば、やっかみも受けるし、もっと言えば大切な所が分からなくなるかもしれない。

 

『・・・・・・好きなことを好きなように思いっきりやるってのは、もうそれだけで尊いことなんだよな』

 

そんな狂いの中、ライブを前に心を揺らすのぞみを見た事で、彼女を元気づけたいと思った啓太郎は大切なことをもう一度思い出す。他人の評価、それが一番大切なのではなく。ただやりたいからやる、好きな事を思いっきりやるからこそ、それが輝きになると言う事を。

 

推しに推されて、互いに推し合う。そんなちょっと不思議な関係が、弾けるような爽やかさの中にラブコメを醸し出している今作品。推し、という気持ちが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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