読書感想:ここでは猫の言葉で話せ

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様の中に猫派でおられる読者様はどれだけおられるであろうか。猫は可愛い、一口に言っても言い切れぬ様々な魅力があり、例えばyoutubeにおいては、レモンちゃんやぽこ太郎とうま次郎、人懐っこい野良猫達や元野良猫のささみちゃん、そしてもちまる君のようにその可愛らしさで視聴者の心を癒す猫達が多数存在している。そんな猫達に癒されているという読者様は、果たしてどれだけおられるであろうか。

 

 

三月、新しい季節が始まろうとするその時にとある女子高校に転入してきた少女がいる。彼女の名はアンナ、通称アーニャ(表紙)。何処かクールでぶっきらぼう、だが独特の格好良さを持つ少女。

 

 だが彼女は、時折何故か猫を求めて何処かへ消えていってしまうという謎の習性があった。それは彼女が猫好きだからか。否、そういう訳ではない。寧ろ彼女は猫嫌いであり、猫アレルギーである。

 

では何故彼女は猫と触れあおうとするのか。それは猫と触れ合わないと死んでしまうから。

 

それは比喩に非ず。アーニャの出身である非合法の組織、通称「家」。その一員に例外なく注入された自殺プログラム、「血に潜みし戒めの誓約」。その働きを抑制できるのがアレルギー反応による免疫系の活性化のみなのである。

 

だからこそ猫と触れ合うしかなく。時に野良猫を探したり、猫カフェまで出向いたり。そんな一種の独特の喧騒に溢れる日々の中、アーニャの周りには様々な人間関係が生まれていく。

 

猫好きの同級生である小花と仲良くなったり、自身にメールでミッションを下してくる謎の存在、「コ―シカ」の正体であると言う小学生、旭姫に押しかけられ半ば強引に同居生活が始まったり。更には謎多き年上の女性、明楽の正体を知り騒動に巻き込まれたり。

 

日本に逃げて来て始まった、コミカルとデンジャラス、そして猫に満ちた日々。そんな日々の中、平和と言う今までに味わったことのない日常の味を味わう中。アーニャはかつての自身の半身とも言える存在であり、自らを逃がすために死した友、ユキの本心を知っていく。

 

彼女が何を望んでいたのか、自身にどうしてほしかったのか。分からぬ中でももがき、知っていく彼女の願い。アーニャに平穏あれ、と願った彼女の献身的な優しさ。

 

そして取り戻す、悲しみと言う名の当たり前の感情。小花の飼い猫の死を見つめ、悲しみを共有し。凍り付いていた涙が溶け出す時、アーニャは自身の弱体化に気付く。

 

それは殺人兵器としては、致命的であるのかもしれない。だが、まるで糸が切れた人形が人間になるように。当たり前の感情を取り戻していく彼女にとっては、これは喜ばしい変化なのである。

 

ガルコメも猫もバイオレンスも全部交ぜた、ごった煮のような中に一筋の面白さが確かにあるこの作品。

 

まだ見た事のない作品を見てみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。