読書感想:クセつよ異種族で行列ができる結婚相談所 ~看板ネコ娘はカワイイだけじゃ務まらない~

 

 さて、結婚相談所を舞台としたラブコメ、というのはかの有名なガガガ文庫の「結婚が前提のラブコメ」、という作品が存在している訳であるが。そも、結婚とは何なのであろうか。違う価値観を許容し受け入れる事、と答えられる読者様もおられるかもしれない。それもまた大切な事である。夫婦になる、というのは多分そう言う事であるのだから。ではそれがもし、種族からして自分とは違う相手だとしたら。その違う事を許容する、というのはかなり大変であるのかもしれない。

 

 

と語ってきたわけであるが、この作品はつまりそう言う事である。異種族同士の結婚をサポートする異世界の都市の結婚相談所を舞台としたお話なのである。

 

人類創世の頃に始まったと言われる、十七の種族が争う戦争が人族の王が魔族の王を討ち終わり、人族の王により十七の種族が平等かつ平和に暮らすための実験都市が作られ約十年。ミイスと名付けられたその実験都市は、今では世界最先端の都市となり十万人を超える人口を抱えていた。

 

「どいつもこいつも、クセが強いなぁっ!」

 

かの都市で一番と言われる、異種族を結ぶ結婚相談所「マリーハウス」。猫人族の田舎から出てきた少女、アーニャ(表紙左)は仕事を探す中でそこに辿り着くも、共同経営者の一人であるショウ(表紙右)を面接で振り回し、結果的に経営者であるドナ(表紙中央)に落とされ。半ば自棄になって相談者をマリーハウスに送り込んでいたら結果的に見習として雇われて。業務に励む中、様々な異種族の恋に向き合い導く事となっていく。

 

アーニャの初恋までも巻き込まれた、Sランク冒険者のビリー。グレイスと呼ばれる神からの恩寵の中でも一際厄介なものを抱えた彼が、本当に探している思い。

 

 

高飛車で傲慢ながらも、根はいい人であるエルフのメーヴェ。純情な思いを拗らせすぎた彼女の、どう考えても高すぎる理想。

 

芸能王のハルマン、彼が出資しているカルテットと呼ばれる音楽グループの中、秘かに溢れていた意外な方向性の恋路。

 

「本当、学ぶことってたくさんあるなあ」

 

無論、彼女一人に出来る事は多くはない。時に指導係であるショウにこっそり手を貸されたり、友達となったメーヴェの力も借りたりして。だが学ぶべきは、この都市で芽生える恋ばかりではない。十年経っても消えぬ傷跡、戦争が遺した負の感情とも向き合わねばならぬ。過去からやってきた、マリーハウスのあり方を許さぬ者が暴動をおこし、アーニャもそこに巻き込まれてしまう。

 

 

《お前もお前自身を愛してやっていいんだ》

 

打開の術の一端は、アーニャが抱えるコンプレックス。ビリーの一件で意図せずして開放してしまった忌むべきもの。けれど、そんなものがあってもこの街は受け入れてくれた。癖だらけの皆だけど、自分を愛してくれた。それこそがアーニャの背を押し。この街に来た目的を胸に、その力を正しい形で解放させる。

 

そして彼女だけではない。事態の裏で決着をつけるのは、ショウとドナ、そしてハルマン。かつての時代を知り自分達も秘密を抱える大人達が、新世代の道を切り開くために活躍する。

 

「人間も二人でいてはじめてあるべき姿になれるのだと」

 

そんな大人達が見守る中で。鬼人族の青年、グエンと駿馬族の花嫁の結婚式の司会を務めるアーニャは高らかに宣言して見せるのだ。

 

(・・・駿馬族の花嫁のキャラ付けが何処かで見た事ある気がするのは気のせいだと思うとする)

 

時に笑えて時にシリアス、そんな真っ直ぐに楽しめる転がるようなラブコメが見所であるこの作品。笑えるラブコメを楽しみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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