読書感想:娘のままじゃ、お嫁さんになれない!

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 さて、インディジョーンズと言えば「冒険」である。彼の冒険譚は、いつだって我々見る側の心を躍らせてきた。だが、彼の冒険譚も今や一昔前の娯楽、生で見た事のない読者様もおられるであろう。しかし、未知な事、全く以て大きな決断を下すのも、「冒険」と言うであろう。しかし、大人になるにつれてそんな「冒険」をする事も減っているのかもしれない。それは何故であろうか。無鉄砲ではいられなくなるからだろうか。自身の行動に、自身の責任が伴ってしまうからであろうか。

 

 

その理由は諸説あるであろう。だが、「冒険」というのは年を取ってくるにつれて難しくなるもの、と言ってもいいのかもしれない。しかし、この作品の主人公、桜人は中々に「冒険」な決断を作中序盤で下しているのである。

 

 一体彼の下した決断とは何であろうか。それはプロの冒険家だった祖父の忘れ形見、藍良(表紙)を娘として引き取る事である。

 

娘として、と言っても彼と藍良の間には血縁関係はない。何故ならば彼女は祖父が旅先で拾ってきた無国籍者の少女であり、祖父の急死により天涯孤独となってしまったから。

 

「義理や責任がなかったとしても、理由がある」

 

彼女との関係は、桜人がとある「約束」を忘れ、不履行となってしまったが故に険悪なマイナスのスタート。それでも、自分は特別ではないとしても。力を尽くしたいと願い。彼女の親となる事を決意する。

 

 祖父の遺した家で始まる、二人の新生活。だがしかし、二人の暮らしは前途多難。問題ばかりが二人の前にこれでもかと立ち塞がる。

 

そもそも無国籍者を養子にするのは簡単ではなく、親戚との軋轢により周りを頼ることも不可能。二人の関係は家族と言うだけではなく、教師と生徒という関係も入る。だからこそ、妙な噂を立てられる訳にもいかぬ。けれど新しく入学した高校で、藍良を取り巻く心にもないうわさが持ち上がる。

 

そんな八方塞がりな状況でも諦めず、周りの頼れる同僚や相談に乗ってくれる元カノ、更には何故か自分に迫ってくる教え子の手も借り力を借りながら。立ち向かっていく桜人の心中で、何かは確かに変わり出す。

 

本当は気付いていなかった、藍良の本当の気持ち。忘れていた、過去の約束。自分が諦めようとして、結局諦めきれなかった夢の残滓。

 

そして、自分の本当の気持ち。今まで色々なものを抱え込んできて、けれど捨てきれなかった自分が本当は、どうしてほしかったのか。

 

「うん・・・・・・。私は、あなたを助けるよ」

 

それをようやく告げられた時。藍良もまた、桜人へと手を伸ばす。今度は自分が、と言わんばかりに。

 

「育児」でもあり「育自」。家族となり共に過ごし、そして共に成長していく。何処かリアリズムに裏打ちされたヒューマンドラマの中、家族愛も異性愛もひっくるめた甘さと温かさのあるこの作品。温かさに飢えている読者様にこそ、読んでみてほしい。

 

そして、何を思われるのか。是非、語ってみてほしい次第である。

 

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