読書感想:恋人全員を幸せにする話

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。ラブコメ、というものにおいてヒロインは基本的に一人であり、複数ヒロインが存在する作品では最後にヒロインが一人選ばれ、失恋に泣くヒロインが存在する、という構造は「固定観念」であると思われるであろうか。もし固定観念だとしたら、それは何故であろうか。それは、日本が一夫一妻制の国であるというのが原因ではないだろうか。

 

 

しかし、そんな固定観念はいつから始まったのだろうか? よく考えてみてほしい。今放送中の大河ドラマの主人公、渋沢栄一にも二人の妻がいるし、戦国時代にまで視点を移せば、多数の嫁を持つ男の方がむしろ当たり前である。

 

 そう、「固定観念」というのは時代によって姿を変えるものなのかもしれない。だからこそ、固定観念というものをただ受け入れるのではなく、疑う事も大切なのかもしれない。

 

「付き合ってください。さもなければ、あなたは退学になるわ」

 

「好きだからに、決まっているじゃないですか」

 

ごく普通の少年、不動(表紙中央)。ほぼ同時に告白してきた二人の少女。お嬢様育ちの遥華(表紙左)。才色兼備に見えて、不動が絶対の存在な残念幼馴染、リサ(表紙右)。普通であれば、どちらかを選ぶ状況になるのかもしれない。固定観念的に視れば、そうなるであろう。

 

「俺と―――三人で付き合おう!」

 

「俺たちが唯々諾々と従っている常識は、誰が決めた?」

 

 しかし、そんな固定観念は本編開始早々僅か34頁でぶっ壊される事になる。とてつもなく巨大な博愛を持つ不動の常識外の選択に遥華とリサもとりあえずの納得を示し。三人は三人共々に公認で、三人で付き合う事となる。

 

ある時は不動の家を訪ねて、彼の風呂に乱入しようとするリサを遥華が静止したり。

 

またある時は、リサが持っていた媚薬を遥華もリサも摂取してしまい、思わず二人して大胆になってしまったり。

 

確かに甘い、少しずつ進む恋人関係。それを包むは、三人での交際という全く以て常識外の外枠。そんな枠の中にいた遥華に迫るは、旧態依然とした彼女の実家の枠組みと言う檻。

 

不動に迷惑をかけたくない、だからこそ選んだ、自分の意思を押し殺して彼から離れる事を。

 

「じゃあ、見せてやればいいじゃないか」

 

「俺を信じて、離れるな。俺はどんなところからだって、お前を連れ出せる」

 

 だけど、不動は彼女の涙を見逃さない。己のエゴを貫き通し、彼女を迎えに行き連れ出していく。まるで、紳士な怪盗のように。姫様を攫って行く騎士のように。

 

複数人交際、それは漫画の世界では見た事のあるもの。だけど、ライトノベルでここまで真っ直ぐに触れている作品は、きっとそうはない。

 

そして、きちんと王道のラブコメをしていて、更には凝り固まったものをぶっ壊す爽快感もあるからこそ。この作品、正に面白いのである。

 

まだ見た事のない形のラブコメを読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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