読書感想:好きな子にフラれたが、後輩女子から「先輩、私じゃダメですか……?」と言われた件

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 さて、この世の中には「横恋慕」という言葉がある。誰かの恋に横入りし、横取りするという事である。では果たして、「横恋慕」という事は良い事なのか、それとも悪事と言えるのか。それは難しい問題であるが、NTRというジャンルにおいては、横恋慕から始まる、という事もあるらしいという事を私は聞いたことがある。

 

 

という前置きはさておき、この作品は前振りからNTRを連想されるかもしれないが、正確には違う。では何と呼べばいいのか。「横恋慕」、というのが端的に正しいのかもしれない。しかし、この「横恋慕」というのは一体、この作品においては誰の主観となるのであろうか。

 

 それは、この作品のヒロイン、彩乃(表紙右)の主観と言ってもいいのではないか。一体、彼女の恋路に誰が横入してきたのか。それは、大好きな先輩である主人公、鳴海(表紙左)が一目ぼれした相手、先輩である楓である。

 

監督兼カメラマンとしてドラマを撮りたいという鳴海の夢。その夢に脚本という形で協力し、片想いをする事五年と少し。もう少しで六年目と言う中、主演女優を探して訪れた場所で、楓への初恋に堕ちる鳴海を傍らで見てしまう。今、彩乃の初恋は破れた・・・

 

・・・となれば、この作品は開始して十ページを待たずに終わっている。しかし彩乃はそんな事では諦める少女ではなかった。

 

「とりあえず鳴海先輩、私と付き合いましょう」

 

楓への初恋に揺れる鳴海を手伝うべく、女の子との接し方を学ぶと言う名目の元に疑似的な恋人関係を結び。手を繋いで登校したり、時にデートして服を選んだり。自身に気を持たせようと、影に日向にアプローチを続ける。

 

そんな彼女の内心を知らず、楓の演者としての致命的な問題へと向き合い、それでもいいとアプローチを続ける鳴海。彼女の母親、という意外な接点も判明する中、楓と鳴海は少しずつ、向き合っていく。

 

その最中、母親と言う縁だけではなく、どころか過去に一時すれ違っていた、という事まで判明し。しかし、楓は自分の思いは報われぬと誤解し、別離を選ぼうとする。

 

「鳴海先輩、私じゃダメですか・・・・・・?」

 

 フラれ傷つき、不安定となる鳴海の心。その時。彩乃が選んだ手段とは。強引なファーストキスと共に、自身の思いを告げる事。彼の事を逃がさないと言わんばかりに、捕らえるように、包み込むように。彼女は泣きそうな顔で、それでもと想いを告げる。

 

別離の後、アクシデントから始まった唐突な共演。そこで再び己の思いを自覚した楓はお芝居の枠を超え、己の思いを溢れさせる。

 

―――長年片想いをし続けた女の子の本気を見せてあげる。

 

 けれど、そんなことは知った事かと。彩乃は一人、心の中で宣戦布告する。その想いを利用する、自分の恋を叶えて見せると。

 

鳴海という花、そこに引き寄せられた楓という蝶。しかし、その花にいるのは彩乃という花蟷螂。 彼女の牙は、横恋慕してきた相手を狩ろうと静かに研ぎ澄まされる。

 

凄絶なまでに純烈な、純恋。長年の想いのまるでチリチリと焦がすかのような、臓腑にたまる熱のあるこの作品。

 

重く熱い真っ直ぐな恋を見てみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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