読書感想:負けヒロインが多すぎる!

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。まずはシンキングタイム五秒で、今までに触れてきたラノベやアニメの作品の中で「ヒロインは複数いたけれど、主人公とヒロインの一対一であるラブコメ」を一作品、思い浮かべてみてほしい。

 

(シンキングタイム)

 

 思い浮かべられたという読者様、貴方にとってのその作品の中に「自分としては結ばれてほしかったし推していたけれど結局負けてしまったヒロイン」、いわゆる「負けヒロイン」はおられただろうか。

 

 

納得出来なかったかもしれない、嘆いたかもしれない。だが、日本と言う国の社会制度を下地にラブコメするとそういった存在が生まれるのは仕方のない事かもしれない。最終的に結ばれるのは一人。だからこそ、必ず誰かが負ける。

 

 女は恋を上書き保存していくと誰かが言った。けれど、それは年頃の少女にとって簡単ではない事。彼女達にとってはその恋こそが全て。だからこそ折れたのならば、そう簡単にはいかぬもの。

 

さてここまで長々と前書きしてしまったがつまりはどういう事なのか? それはこの作品がラブコメ界に一石を投げ込む石であり、何処にもない唯一無二。「負けヒロイン」に焦点を当てたものだからである。

 

主人公である達観系ぼっち、極力面倒事には関わりたくない、背景に書かれていそうな少年、和彦。

 

彼は、ヒロイン達のラブコメにとっては出演者ですらなく、端役ですらない。

 

 だが、ヒロイン達も主役ではない。彼女達は脇役、主役を掴み損ねた者達なのだ。

 

明るい食いしん坊女子、杏菜(表紙)。彼女は幼馴染、草介に恋をしていた。けれど彼は転校生である華恋とラブコメを繰り広げていた。

 

陸上部のエース、檸檬。彼女の恋のお相手であり和彦の既知の相手でもある光希。だが幼き頃からの知り合いであるからか彼の目には彼女は映らず。彼は同じ塾の同級生、千早といい感じの関係だった。

 

文芸部所属のやや腐女子、知花。彼女の恋は遅すぎた。恋した相手、文芸部の部長である慎太郎は幼馴染でもある副部長、古都と切れぬ縁を既に結んでいた。

 

 もうお分かりであろう。彼女達の恋は決して結ばれる事は無い。周回遅れ、挑むラインにすら立たせてもらえない。その手を伸ばしても、届く事は無い。

 

ある時は偶々居合わせたファミレスで、またある時は文芸部の部室で。更にある時は、合宿で皆でやった花火の光が照らす中で。

 

杏菜と金の貸し借りで関係を結び、気が付けば顔を出す事になっていた文芸部に彼女達も集まり。和彦は彼女達がフラれる現場に居合わせ目撃者となり、その恋の終わりを見届ける事になっていく。

 

「私もあなたのこと勝手に好きでいるし、いつか勝手に他の人を好きになるから!」

 

 だが、そう簡単には終われない、終われる訳もない。当たり前だ。恋は折れたとしてもその残滓はまだ熱いままに。その心を焦がしているのだから。

 

区切りが必要なのも確か、そして舞台に上がれぬ者が降りるのもまた道理。けれど彼女達の叫びは、涙は。一種の美しさを以て心を焦がそうと迫ってくる。

 

嗚呼、だからこそ素晴らしいと言えよう。だからこそ彼女達は輝いていると言えよう。

 

そんな一瞬の、どこにもない輝きが詰められている。だからこそこの作品は、かのチラムネと同じく唯一無二なのだ。

 

だからガガガ文庫は止められない。

 

誰も見た事のないラブコメを見てみたい読者様、いや、全てのラブコメ好きの読者様にお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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