読書感想:たかが従姉妹との恋。

 

 さて、従姉妹という存在は画面の前の読者の皆様にとって、ヒロインとしてはどう思われる存在であろうか。その答えは様々、あるかもしれない。良いと思われる読者様もおられるかもしれないし、受け入れられないと思う読者様もおられるかもしれない。だが、ラブコメのヒロインとしては古来から細々と存在するものであり。故にこの作品は、先に言ってしまうとどこかノスタルジックな、今のラブコメとは違い煙るような面白さがあるのである。

 

 

大富豪であり稀代の女たらし、故に子供多数、孫多数。あちこちに種をまき散らした事で死後、骨肉の遺産争いを巻き起こした男、源一郎。そんな存在を祖父に持つ少年、幹隆は源一郎が子供達には明確に残さぬも、孫たちには段階的に渡るようにしていた遺産の一つである東京のマンションの一室に引っ越す事を決め。源一郎の遺産争いに手を出している両親から離れ、故郷である三重から東京へと引っ越し、進学に伴い一人暮らしを始める。

 

始まって早々、凪夏という級友と仲良くなり。可愛い彼女に、初恋のようなときめきを感じながらも始まる、彼にとっては新天地での生活。

 

「みっくんはさ、私のこと。いつかは絶対に、忘れないと駄目だよ」

 

 が、しかし。その日々は唐突に変化の時を迎える。彼に遅れる事少し、同じクラスに転校してきた従妹である伊緒と、その双子の妹である眞耶。お互い気を遣わぬやり取りを繰り広げ、子供心特有の、今考えるととんでもないやり取りを繰り広げていた相手に、最初はぎくしゃくするも。同じマンションに引っ越してきた事でまた距離は縮まり、あの日のような関係にすぐに舞い戻り。 その最中、彼は再会する。初恋の相手であり初キスの相手であった四歳年上の従姉、絢音(表紙)に。

 

年齢を経、更に美しくなり、あの日は無かった香りまで漂わせる彼女に、心のどこかに残っていた気持ちを突かれながら。凪夏との関係を疑った伊緒に、絢穂にアドバイスを求める事になり。気が付けば彼女達にサポートされる事になり、凪夏との恋へと強引に送り出されていく。

 

「・・・・・・バタフライ効果、起こった方がいいと思っとるのはうちだけか?」

 

そんな中、ふとした眞耶の言葉が幹隆の心を揺らす。そんな奇跡があってもいい、と何かを望むのを仄めかす彼女の言葉。それが突き刺さっていく。

 

「青いね」

 

たかが従姉妹との恋、されど従姉妹との恋。正に青い、誰もが若くて大人とは言い切れなくて、揺れる思いに戸惑わされる。けれどそれこそが青春、苦くて甘い面白さがあるのである。

 

ちょっぴりビターなラブコメが読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

たかが従姉妹との恋。 (ガガガ文庫 ガな 11-1) | 中西 鼎, にゅむ |本 | 通販 | Amazon