読書感想:強気なお嬢様が俺の料理で甘々に

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方はフランス料理のフルコースはご賞味された事はあられるであろうか。格式高いレストランで、正装を纏いフルコース料理に舌鼓を打たれた事はあられるであろうか。

 

日本のとある都市に存在する三ツ星レストラン「フリメール」。そこで高校に通いながら働く少年、明人。彼は高校生の身でありながらも、既にかなりの腕前を誇る料理人であり、その腕前は仲間内からも認められる程であった。

 

そんな彼は待ち望んでいた、副料理長就任へのチャンスを掴む。彼に課された試験。それはオーナーの娘、結奈(表紙)と同じ家へと住み込み、一か月彼女へと料理を振る舞う事であった。

 

外聞的には明るく社交的、正に学校の花と言わんばかりに人気を集める結奈。

 

だがしかし、彼女は明人にだけは厳しく、彼を認めないと端から拒絶する態度を取っていた。

 

普通であれば既に詰んでいると言ってもいいかもしれないこの状況。だが、結奈は三ツ星レストランのオーナーの娘である。つまりどういう事か。彼女の舌は肥えている。そして彼女は味に対して嘘は吐けぬ、正直という事である。

 

エスカルゴのブイヨンに始まり、イサキのポワレから牛肉で創るメインディッシュ、そしてデザートに至るまで。

 

明人渾身のフルコースは、結奈から美味しいの一言を引き出し。二人の関係はここから幕を開ける。

 

そして降ってわいた共同生活の中で、結奈と明人は少しずつお互いの事を知っていき、お互いの事を見つめていく。そしてお互いに影響を与えていく。

 

結奈にとって明人は、どこにでもいる影の薄い級友の一人であった。自分にとっては関係のない一人であった。

 

しかし彼女は知っていく事となる。何処までも料理に愚直で、他の何を差し置いてでも料理に全力投球な彼の料理への情熱を。

 

明人にとって結奈は、高嶺の花であり少し面倒くさい雇い主であった。だけど彼女はいつの間にか、大切な事を教えてくれた。

 

その大切な事の答え、それは「誰かに作る」という事の本当の意味。ただ作るのではない。誰かの為に作る。料理というものの本質的な意味だ。

 

料理は独りよがりでは完成しない。大切なのは愛情、誰かを想う心。

 

その答えを知って殻を破った時。彼女の為を想って三日三晩かけて思い出の一品を再現したときに明人は新たな段階へと進み、本当の意味で「料理人」となれたのだ。

 

 

「いや・・・・・・ここにいるのが、楽しいからさ」

 

立場を捨ててでも選んだ居場所。それは大切な「友達」の隣。料理というものの本当の意味を知れた場所。

 

シュガーにスパイスを合わせて深みを出し、舌の上で転がせばまるで蕩けるかのように芳醇に味わい深く。

 

普段見ない高級料理という舞台だからこそこの味は新鮮。そこに王道な味が合わさるからこそ深みのある面白さがある。それがこの作品なのである。

 

料理の本質を覗いてみたい読者様、真っ直ぐなラブコメが楽しみたい読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も、虜になってしまう筈である。

 

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