前巻感想はこちら↓
https://yuukimasiro.hatenablog.com/entry/2020/04/27/235814
絶望に晒された世界で英雄を求めるのは民衆の心理なのだとすれば、世界に必要なのは英雄なのだろう。しかし英雄だって一人の人間、柵からは逃げられぬのかもしれない。
さて、前巻の戦いにより人類の英雄であったフライハルト侯爵は討伐された。外ならぬユウマの手によって。だが世界はその真実を知らず、英雄の死により混乱する世界を纏める為にユウマは仲間達と共に英雄へと祭り上げられる事を余儀なくされる。それは最強の力を持つファルもまた、同じ。
前巻がユウマとイノリ、前世から続く宿縁の力を描いた巻なのだとすれば、今巻はユウマとファル、今生で結ばれた最強の兄妹の力を鮮烈に描く巻である。そして、ファルを縛る鎖を破壊する、前巻と合わせて一冊と呼んでも良いかもしれぬ巻である。
何処の世界にも毒親と呼ばれる者はいるのか、ファルが期せずして有名になった事で一度は捨てた彼女を再び家の道具とするべく、取り込もうと迫ってくるファルの両親。
対し、必死に抵抗し家に戻り家名を背負い、魔族を討つことで条件とするファル。
一度は非情に、冷酷にユウマ達との縁を切り一人戦いへ向かう彼女。だが、言葉では捨てきれても心の中では捨てられないのはユウマへの想い。当然である、何故ならその想いは彼女の全てと言っても過言ではないから。
「助けて、兄さんっ!」
エルフラムと同格の強大な竜人魔族との戦いの中、絶体絶命の状況で呼んだのは彼の名前。
「後のことは些細なことだ。なんとでもする」
「特別だ。見せてやろう。俺の本気を」
その叫びに応えるように、ファルでは追いつけぬ遥か高みの全力全開を発揮し隔絶した力の差を見せつけるユウマ。だがそれだけでは足りぬ。そしてそこを埋めるのはファルの愛が生み出した神の領域に至る力。
「愚問です。今すぐに兄さんの力になりたい」
「遠慮はしない。使うぞファル」
ここに世界に見せつけられるのは、天使の力を借りずとも生まれた奇跡の力。互いを想い合う兄妹の絆が生んだ確かな戦果なのだ。
エルフラムの力を借り更に力を得、イノリをこの世界につなぎとめる道筋も光明が見え。
だけど積み重なった問題を一つ一つ解きほぐしても、まだまだ魔族は強大であり戦火に終わりはまだ見えず。
始まりを経て本格的に動き出す今巻。前巻を読まれた読者様、今から読むという読者様も是非。きっと満足できるはずである。