さて、画面の前の読者の皆様、貴方はどこかで言葉が通じずに苦労した経験はあるだろうか。今の世の中、スマホがあれば多少の言葉が通じない事態は何とかなるのかもしれない。が、しかし。この状況は流石にないのであろうか。
主人公はある朝起きたら異世界に転生していた少年、竜之介(表紙左)。しかしこの転生が問題であった。
彼が転生してしまったのは、よりにもよって人間ではなくワーウルフ。このワーウルフという種族、低脳種と呼ばれる魔物の中でも知能が下等である種族であり人間とも魔物とも意思疎通が出来ないというコミュニケーションが全くできない種族である。縁もゆかりもない異世界、寄る辺なし、そして何とか説明しようにも説明できる言葉もなし。中々に八方塞がりな詰んだこの状況。この状況に救世主として現れたのが、テイマーの名家と言われる貴族家の令嬢、エフデ(表紙右)である。
これで何とかなったと思われた、だけどそれすらも甘かった。この世界、テイマーと言えども従魔と言葉を交わせるようになるスキルも魔法もなかったのである。
しかし、言葉は通じずとも通じるものがある。それは心である。心が通うのならば、言葉が通じる必要性は必ずしもない。
そう、この作品に溢れる様々なコミュニケーション。言葉のぶつけ合い。しかしその大半にはお互いの意志がなく、都合を押し付け合うかのように相手の心を見ていない。
それに比べて竜之介とエフデはどうか。この二人は確かに言葉は通わない。だからこそ通じ合えない。だけど時に心が通じた時、そこにはどんな距離すら飛び越える心の通い合いがある。
「・・・・・・・・・・・・きみは、どうしたい?」
初めて気遣ってもらえた時、この二人の関係は本当に始まったのである。この世界で孤独な、だからこそお互いしかいなかった二人がここから家族となれたのである。
この作品にあるのは異性愛ではなく、家族愛に分類されるのだろう。だからこそ只のラブコメではない温かみがある作品なのである。
温かい作風に触れて癒されたい読者様は是非。きっと満足できるはずである。