あやしあやかしおいでませ、今宵貴方は惑わされる。
・・・はい、祝詞イメージの戯言は聞き逃していただきませ。
画面の前の読者の皆様、貴方は名前ってどんなものだと思われるだろうか。最近キラキラネームという一見して読めない個性的な名前も出て来てるが、それはさておきこの作品で重要となるもの、それが名前である。
舞台となるのは、まるで某FGOのように様々な世界の要素が入り乱れ、和の世界をベースとしながらも多種多様な神仏の要素が混ざり合う、名付けられた名により本質が変質してしまう異世界、「此の世」。その世界にかつて暮らした世界の記憶を持ち合わせたままに転生してしまった少女、それこそがこの作品の主人公である八重(表紙右)である。
かつての記憶を持ち合わせるが故にみずからの今いる場所に馴染めず、どこか退屈な日々を送る彼女。そんな彼女が同じ郷の少女と共に花嫁として嫁ぐ事になり、唐突な敵襲に襲われ。その最中、呼び覚ましてしまったのがかつて神であり、自らの記憶を忘れかけていくも変質を免れた奇特な神、亜雷(表紙左)である。
この二人の関係を言うなればデコボコ主従となるのであろうか、それとも運命共同体と言うべきか。
望まぬも約定を結ばされ嫌々ながら八重に仕える事となるも主人である八重を、その俺様的言動と神様的な自由さで振り回していく亜雷。
そんな彼に振り回され、時に前世の言葉を交えた言動で戸惑わせながらもついていく事となる八重。
そんな二人は、変質の進んでいた亜雷の弟神である栖伊と出会い、八重に神様が侵される病気を治す力がある事を知る。
そう、それこそが彼女にのみ許された、神様を再び人の隣人へと取り戻す力なのだ。
その力を頼りにされ、出向いた先、嫁に行くはずだった里で巻き込まれる呪いの騒動。
「なんでもいいから、ここに来てよ‼」
命の危機の中、思い出すのは生への希求。叫ぶのは自分勝手な、だけど誰よりも頼りになる神様への祈り。
「呼ぶのが遅いんだよ」
それに応え駆け付けるのは、彼女と繋がった、神としての心を忘れぬ金の虎。
この作品は和である。もふもふである。そしてデコボコで主従で、だけど心の奥底で繋がった二人のここにしかない絆の話であり、居場所のなかった少女が一歩踏み出し、成長を遂げ自らの居場所を作り出すお話なのである。
「いいだろ、八重先生。八百万の化け物どもを誑かそうじゃないか」
ここから始まる一人の少女と二柱の神の世直し治療物語。どうか画面の前の読者の皆様も恐れず読んでみてほしい。そこらのファンタジーじゃ勝てっこない、重厚で肉厚なファンタジーが楽しめる筈である。
この作品を教えてくれた、私の読友のみかこさんに感謝を込めて。