読書感想:シンデレラは探さない。

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突然ではあるが画面の前の読者の皆様、貴方は童話と聞くとどんな作品を真っ先に連想するであろうか。赤ずきんだろうか、人魚姫だろうか、それともシンデレラだろうか。

 

この作品の題名、シンデレラは探さない。シンデレラを探すのは王子の役目であるはずなのに、シンデレラは何を探さないのだろうか。そう思われた読者様、貴方は鋭い。

 

そう、何故「探さない」のか。それは探す必要なんてないから。だってシンデレラにとっての王子様はすぐ側にいて、いつでも物語への扉はすぐ側にあったからである。

 

この作品は言ってしまえば、主人公とヒロインが出会い互いを知り、心の距離が近づいていく。ただその過程を描いた、SFでもなく運命的な出会いという出会いもない、まるで童話のような恋ではないラブコメである。しかし、だからこそそれが面白い、そう言いたい。

 

この作品のヒロインである、新築のタワマンの最上階に住むシンデレラとあだ名される少女、真堂礼(表紙)。彼女の王子様となる主人公、荒木陣。

 

まるで童話のように身分が違う、正に天と地に別れたような場所にいる二人。だがしかし、この二人の根底に抱えるものは同じだった。そしてお互いがお互いを埋め合える存在だったのである。

 

決別の儀式を邪魔され空腹を助けられる、そんな衝撃的な出会いをした礼は陣に興味を持ち、彼を観察しているうちに少しずつ、気付かぬうちに自分が変わっていく。

 

「わたし・・・・・・、家、近いです」

 

その一言は、自ら目印となるガラスの靴を脱ぎ捨てる為の言葉。

 

陣から見た礼は住む世界の違う謎の少女だった。だけど彼は、自分の家の前に落ちていたガラスの靴を拾った。

 

そこから始まるのは、二人と友達、そして家族の優しい時間。家族ぐるみの交流を経て埋まっていくのは礼の心の隙間。

 

そして礼は、まるで陣の心を丸ごと受け止めるかのように彼を抱きしめて見せた。

 

「なあ、レイ・・・・・・、これからも、俺を助けてくれるか?」

 

住む世界が違うと思っていた彼女の本当を知り溢れ出すのは、心に抱えていた脆さ。それを埋めてくれたのは彼女の想い。

 

そう、繰り返しになるがこの作品は運命だのなんだのなんて絡まない。何処にでもある出会いと恋のお話だ。しかし、お互いを覆っていたヴェールを取り払い互いを見つめ合う、真っ直ぐで初々しく、純な想いが温かい。そんな何処にでもある日常、だからこそ一つ扉を開いてしまえばいつだって物語へと変わる、どこにでもある日常が尊いブコメなのである。

 

ブコメ好きな読者様、是非ともこの作品を読んでみてほしい。このラブコメ戦国時代に燦然と参戦した、ラブコメとして満点の作品なので。

 

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