読書感想:魔女と傭兵

 

 さて、突然ではあるが異世界に転生、ならばともかく異世界に転移しても言葉が通じるというのは一種のチートであろう。その辺りを突き詰めてしまえば、まず言語理解と言う所から始めねばならないのだ。そう考えてみると、異世界で重要なのはまずは言語と言えるのかもしれない。

 

 

それもまた当然かもしれない。そもそも異世界であっても国が違えば言語が違うかもしれないし、そもそも文化も環境すらも違うかもしれない。その辺りに焦点を当てて丁寧に描いていくのがこの作品なのである。

 

魔術や魔獣と言った存在が失われた、とある異世界のとある大陸。かの大陸で脅威と呼ばれているのは唯一、魔術である超常の力を用いる「魔女」と呼ばれる存在。故に魔女に存在を許される理由はなく。とある国が立ち上げとある領主の息子が率いる討伐隊。そこに参加した歴戦の傭兵、ジグ(表紙左)は魔女の脅威から一人生き延び、魔女であるシアーシャ(表紙右)を追い詰めるも、依頼主の死亡によりただ働きは御免だと戦闘行動を停止する。

 

「あなたに私の護衛を依頼します」

 

つまりシアーシャを殺す理由もなく、今はフリーな存在。そんな彼へと彼女が依頼したのは、自分を何処か安全な場所に連れて行って欲しいという護衛依頼。だがこの大陸にそんな場所はない。あるとすれば、最近発見されたばかりの異大陸。最近になってやっと調査が開始された未知なる世界。そこを目指す事となり、二人は調査団に潜り込む事となる。

 

「いやぁとんでもないところに来ちゃいましたね」

 

 だがしかし、首尾よく辿り着いた異大陸で受けたのは、見た事もない魔獣の襲撃と調査団の壊滅と言う事態。そう、この異大陸では幸い言葉は通じるも、魔獣も魔術も普通に存在し、冒険者と呼ばれる職業が存在する代わりに傭兵が蔑まれる、という今までの常識が何も通用しない世界だったのだ。

 

つまりはシアーシャとジグ、当たり前のように阻害される者と受け入れられる者の価値観がひっくり返ると言う事。それでも、彼女の依頼が続く以上は離れるわけにはいかない。冒険者となったシアーシャの荷物持ちという形でジグもその冒険に付き合い。現地の冒険者と交流したり、時には裏取引を疑われて襲撃を受けたりしながら。少しずつ彼等はこの異大陸に馴染み居場所を得ていく。

 

「お前の屍、跨がせてもらうぞ」

 

何もかも違うこの大陸の常識に馴染んでいく、けれど守るべきもの、行動の芯は変わらない。それを阻む者あれば切り捨てるのみ。例えそれが同郷の者であったとしても。

 

泥臭くも真面目に、地道に生き抜いていく。そんな地に足のついたファンタジーが、設定モリモリで作り込まれた世界観の中で繰り広げられるこの作品。王道で骨太、硬派な作品を読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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