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読書感想:魔女と傭兵2 - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、異大陸の街に息づいて少しずつ人脈を築き始めたこの作品の主人公コンビ、ジグとシアーシャであるが。画面の前の読者の皆様、こんな事を思われた事はないだろうか。この二人、街の外に出ないのか、と。よくある冒険ものであればある程度までいけば、街の外への遠征、という展開もあり得るであろう。しかし、それはこの作品の本質とは言えぬかもしれぬ。この作品はコツコツと進んでいく作品であり。街の外へと行くには、シアーシャの冒険者としての等級が上がる事が重要なのだから。
そして無理に街の外に出ずとも、まだまだ知らない事があるというのが分かるのが今巻であり。シアーシャの様に人とは違う、けれどかつて暮らした場所にはいなかった存在、亜人と人間の確執の一端を垣間見るのが今巻なのだ。
「こっちじゃ珍しくもねぇ、亜人嫌いの人間だよ」
賞金首の出現により、冒険者家業も一休み。そんなある日、朝市で目撃したのは排斥されている亜人という光景。 極端に嫌っている人間は一定数いる、しかし基本的にはよく思っていない人間の方が多いと言う事を聞き、ジグの心には僅かな漣。
しかし自分達に関係なければ関わる事もない。この機会を生かし、シアーシャが手加減用の魔術開発に励む中。一人、訓練後に昼食を取っていたジグは、知り合いの冒険者に依頼され。賞金首である蒼双兜の討伐に向かっているワダツミの面々のサポートに向かう。
意外と拍子抜けに進むかと思われたその依頼、しかし蒼双兜のオスの死骸から出現したのは特異な成長を遂げた寄生虫。魔術的なタイプの為、ジグの方に決定打はなく。囮に徹し、セツの魔術で決着をつける中。負傷したジグは回復術により回復するも、エネルギーを使い過ぎて極度の空腹になると言う、どこぞのアマゾンみたいになるという副作用が判明する。
一先ず賞金首も去り、寄生虫の核がジグの新たな武器である魔具の核になり。新たな武器も手に入れる中、魔物に襲われた冒険者を救援したら、それは亜人であり。敵対しないのなら敵ではない、というジグの考えにより、一先ず知り合いという関係には落ち着く。
だがそれが他の冒険者の目に奇異に映ったのか。目を付けられ、依頼を独占されると言う嫌がらせにあい。シアーシャは怒りに駆られそうになり、必死に自分を抑え込もうとして。だけどそんな彼女をジグは肯定して。
「・・・・・・行きましょう、私の傭兵」
「仰せのままに」
ケツは自分が持つ、好きにやればいい。 大義名分を得て、シアーシャは久方ぶりに本気を見せつける。かつて恐れられ、この大陸においてもとんでもない部類である「魔女」としての本気を。
その裏、まだ彼等も繋がりのない所で起きようとしているのは、街を腐らせようとする悪人同士の抗争。その抗争が彼等の所にまで繋がる、その日も近いのかもしれない。
より人間関係が広がり世界観が深化する今巻。シリーズファンの皆様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。