読書感想:スパイ教室 短編集03 ハネムーン・レイカー

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:スパイ教室08 《草原》のサラ - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、この作品の短編集も三巻目、まぁまぁ数が増えてきたわけであるが、果たして今巻は何を描いていくのか、であるが。このシリーズを楽しまれている画面の前の読者の皆様は、只一人の生き残りであるランを残し、壊滅した「鳳」の面々に何か思われる事はあるであろうか。スパイの世界では死は日常茶飯事、だから悲しむべき事ではないのかもしれない。でも彼等のパーソナリティについてはもっと知りたかったと思われる読者様もおられるかもしれない。

 

 

つまりは今巻は、今まで語られなかった「鳳」と共に過ごした時間の話。養成校でトップの人材を集めたチームの内面に踏み込んでいくお話であり。読み終えた時、きっと喪失感に襲われる事間違いなしなお話だ。

 

「羽琴」のファルマの任務、ロリコンの政治家の懐に潜り込む為の合コンへ、サラ、アネット、エルナの年少組が招かれ。別任務で潜り込んでいたクラウスも何故かその場に現れる中、場を支配する妙技を目にし。

 

「何もしてあげられなくて、ごめんねぇ」

 

その後、サラへ対するファルマの不器用な気遣いの真意を知り。

 

「実質一択でござる」

 

モニカの心を折った、かつての試験官がクラウスの仲間であると言う事実を知ったのと関発入れず、ランが無自覚に地雷を踏み抜きモニカがキレて大暴れしたり。

 

「・・・・・・おれたちは変わらなければならない」

 

アネットと、「凱風」、クノー。単独行動しがちな技術者という共通点を持つ二人が、任務の中で小さな命の死と向き合ったり。

 

嫌われ者を演じながらも大局を見るビックスの思いが見えたり。「堕落論」と呼ばれる養成校からの落伍者達の犯罪組織を追う一連の日々の中。見えてくるのは、「鳳」というチームの内情。姦しい高校生のような「灯」とは違い、どこか自堕落な大学生サークルのような自由さと気ままさがあり。そしてヴィンドだけがどんどんと成長していき、少しずつ溝ができ始めていると言う問題が明らかとなる。

 

 そんな彼等は「灯」の面々との交流の中で何かが変わったのか。何も変わっていないように見えて、実は何かが変わっていた。ヴィンドの心の中、かつてのボスであるアーディの言葉の真意を理解する余裕が芽生えていたのだ。

 

その蜜月は確かに受け継がれる。受け継がれた結果はもう皆様ご存じであろう。

 

「大正解だよ、ヴィンドくん」

 

その裏、彼等は先に逝った彼女の元へ。この死はこの世界に生きる以上、避けられなかった。けれど、確かに刻めたものはある。ならばきっと、無駄死にではないのだろう。

 

ちょっとしんみりと切ない今巻。シリーズファンの皆様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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