読書感想:恋と呪いとセカイを滅ぼす怪獣の話

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様はもし、自身の隣にいる人が自分には見えていないものが見えていると知ったら、どんな反応をされるであろうか。隣にいる人が、自分の心を読んでいると知ったのなら、どうされるであろうか。人と違うものは気持ち悪いかもしれぬ、嫌悪してしまうかもしれぬ。だがそれは「個性」の延長として受け入れられる方もおられるかもしれない。皆様は一体、どちらであろうか。

 

 

その答えは皆様次第であるとして、この作品においてそのような「違い」は「呪い」だ。しかも、この呪いは只の自然発生ではない。とある事件が関わっているのだ。

 

作中世界の太平洋に突如として星が堕ち数年後。この世界には「呪い」と呼ばれる奇妙な力を宿す子供達が生まれていた。「星堕ちの子供」と言われる彼、彼女達は人とは違うが故に孤独を抱え。通称、「星堕ち島」と呼ばれる絶海の孤島に集められ、集団生活を送っていたのである。

 

「人の感情に触れられる」呪いを持つ、真久良(表紙左)。彼に対し、外面はツンツンとしながらも内心では妄信的な思いを向ける「時間を五秒だけ追加する」呪いを持つ稀音(表紙右)。彼等が暮らす星堕ち島へ、本土からの転校生として「視界を映像記憶に変える」呪いを持つ春が現れ。「怪物を視る」呪いを持つ少女、うづ花も巻き込んで。何とはなしに集まった四人の、孤独な者達の青春は、始まる、筈だった。

 

「君はずっと、ずーっと、誰の話をしているのかな?」

 

・・・だがしかし、突如として事態はきな臭さを孕ませる。「消える少女」の噂、真久良に纏わりついてくる稀音の妹。突如として浮かび上がるのは、誰もが騙されていると言う真実。

 

一体誰が何に騙されていると言うのか? この島に隠された矛盾とは何か、嘘とは何か?

 

そう、これは根底はミステリーなのである。故にこれ以上語るのは野暮というものであろう。だからこそ、この作品を読んで確かめていただきたい。ヒントは少しだけ開示しよう。

 

この島は本物、ばかりではない。一つは本物、後は偽物。

 

全ては只一人の彼女、その感情の暴走が全てを始める引き金を引いてしまった。

 

誰もが皆、誰かに騙されている。隠されているのは、裏で進行している思惑は一つだけではない。幾つかの別々の思惑が絡み合っている。

 

「だから、ここで、私は生きていく」

 

「おまえは俺の特別だ」

 

「うん、逢いに行くよ」

 

 だが、世界は違えど、そこに交わされる思いは同じ。自分だけの世界を持つ、だからこそその世界が交わるのなら、もっと世界は面白くなる。それは時間の壁も夢の壁も越えて。だからこそこの作品は、青春譚でもありハッピーエンドのお話でもあるのである。

 

ちょっと不思議な、だけど確かに面白い作品を読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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