読書感想:スパイ教室 短編集04 NO TIME TO 退

 

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読書感想:スパイ教室09  《我楽多》のアネット - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、第三部、世界謀略編開始、といきたい所であるがそうもいかない。画面の前の読者の皆様、誰かお忘れではないだろうか。そう、「浮雲」のランの事を。壊滅した「鳳」の面々の中、只一人生き残った彼女の事を。彼女の事も解決し無ければ、本当の意味では先に進めない。そして彼女を通じ描かれる、短編集なりのテーマ。それは「進路」。スパイを辞めるか、それとも続けるか。セカンドキャリアという所に目を向けていくのが今巻なのだ。

 

 

「―――では、一人クビにしてくれ」

 

「もう働きたくないでござる!」

 

フェンド連邦からの帰還直後、任務の後には勿論報告。膨大な量の報告書に挑む中、陽炎パレスから出て行かないラン。彼女は「灯」に入るのか、と思いきや九人は面倒見切れないとクラウスは却下し。スパイとしての炎が燃え尽きてしまったランは談話室に立てこもり。クラウスからの指令で少女達は、ランの就職先を探す事となる。

 

一般的な進路は別のチームのスパイか、はたまた教官か。はたまた一般人に戻るのもありか。様々な進路に考えを巡らせる中、「鳳」との蜜月、その最後の記録が語られていく。

 

ヴィンドが残した課題により養成校に戻る事になったリリィとサラ。再び執拗な苛めに逢うも、何も教わってはいないけれど学んだしたたかさでいじめっ子たちを叩きのめし。

 

ファルマの兄、「聖樹」のダグウィンの望みをかなえてあげて欲しいとの課題で彼の元に向かったティアとグレーテは、妹を求める彼に振り回される中、同じ世界で生きてきた兄としての想いに触れて。

 

モニカの起こした混乱にも立ち向かわなければいけなかったクラウスの裏、放置されているアメリと一番関わっていたエルナは、嘘だらけの上に細やかな友情を築き。

 

全て終わってお祭りがおこなわれている国に遠回りして帰る中。裏切り者として仲間達から距離を取ろうとするモニカを少女達が振り回し、ある意味過激な悪戯である罰を与えて。

 

そんな中、考えていくのは「引退」という意味。この世界がどんなエリートであっても死ぬ時は死ぬ、という現実は見た。それでも進むのか。残された傷跡はこんなにも深いと言うのに。その怒りと悲しみを、ダグウィンはクラウスへとぶつけ。「灯」の少女達もやりきれぬ思いを吐き出すように加勢し。あっという間に状況は敵味方に分かれての大混戦となる。

 

「―――まだ引退する時じゃない」

 

「まだ退く時じゃない」

 

 ぶつかり合う思いは、ランの心にも火をつけ。その火は、少女達にも伝播し。ぶつかり合えば元通り、と言わんばかりに彼女達はまた歩き出す。いつか誰かに生きた証を託せるその日まで、進みだしていくのだ。

 

昇華すべきものを昇華させ、本格的な戦いに向かう今巻。果たして革命は成功するのか。シリーズファンの皆様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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