読書感想:スパイ教室 短編集02 私を愛したスパイ先生

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前巻感想はこちら↓

読書感想:スパイ教室06 《百鬼》のジビア - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻で地獄の一丁目もかくや、という程の展開に追い込まれ、身内の裏切りという最悪の事態が発生した主人公達「灯」の面々であるが、今巻は前巻の空気を一旦置いておいて、短編集である。コメディからシリアスまで、様々な色のある短編が詰め込まれている巻であり、前巻の補完ともなっているのが今巻である。

 

 

合衆国にて「紫蟻」の捕縛に成功し、任務後の休暇の時間を過ごしていたときに一旦、時間は巻き戻る。ティアが発見していた「紅炉」から託されたもの、クラウスも詳細を知らぬ何かの鍵。その鍵が合う箱は、陽炎パレスの庭園の土の中から発掘される。

 

 が、しかし。そこに入っていたのは、「クラウスは、アナタを  ている」とだけ裏面に書かれた数枚の風景写真。その空欄に当てはまる言葉が思いつかぬティアの不注意により、「愛している」と当てはめたメモが陽炎パレスの中に散らばり。少女達の誤解を招いていく。

 

それぞれの心の中にあるクラウスへの思いを擽る、その言葉。そこに誤解が発生しない訳もなく。次々と誤解する少女達が発生する中、物語の裏にあった日常と作戦は紐解かれていく。

 

合衆国潜入前、アネットがアルバイトしたいと申し出て、其処から始まるある意味とんでもない大騒動。

 

同じく準備期間中にティアに持ち掛けられた、サラからの恋愛相談。そこに隠れていた小悪党へ対する、ティアだからこその作戦の顛末。

 

合衆国へと移動する豪華客船、その中で発生しようとしていた事件とそこに気付かぬうちに巻き込まれてしまった、エルナへ向けられた誤解と勘違いの積み重なった末の妙な方向の騒動の行方。

 

そして、合衆国の闇の中で繰り広げられた決戦の傍ら、リリィがたった一人で挑んだ無謀な時間稼ぎの戦い、その熱き顛末の行方。

 

 騒がしくも賑やかな日常、そしてスパイだからこその熱き暗闘。幾多の記録を振り返る中、判明していく「紅炉」の思い。そこに秘められていたのは、ティアの過去に関わる顛末。そこにクラウスが如何に関わっていたのかと言う事実と、「紅炉」が未来に託した思い。

 

「どうだろうな。最近笑った例しはないと思うが」

 

今皆で笑い合う、少女達。その姿に、その賑やかさに思い出すのは師匠の言葉。師匠の教えを、知らぬ内に体現している「彼女」の姿。

 

その姿を認め、自然と小さくではあるが笑みが溢れ。その笑みを一瞬で消し、クラウスは少女達を率いて新たな任務へと向かっていく。

 

さて、この賑やかな日常の先に待つのは如何なる地獄か。

 

その光景を楽しみにしたい次第である。

 

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