読書感想:S級学園の自称「普通」、可愛すぎる彼女たちにグイグイ来られてバレバレです。

 

 さて、「能ある鷹は爪を隠す」などど言うけれど、実際それは正しい事である、のかもしれない。人間誰がどんな特技を持っているか分からないものであり。ラノベにおいては取るに足らぬ陰キャラがどんな特技を持っているのかも分からぬし、そのような特技が物語の方向性を決める事も往々にしてあるのである。

 

 

私立帝開学園。日本を代表する巨大グループ企業が設立した中高一貫校であり、通称「S級学園」と言われるほどに施設が充実した、進学やスポーツ、芸能、芸術、正にあらゆる分野に「S級」の人材を輩出するという理念を抱えているこの学園。この学園の理事長の孫娘であり自身もまたトップアイドルの幼なじみ、瑠亜にいいように扱われる「陰キャ」の少年、和真(表紙左)。

 

「アンタと幼なじみってだけでも嫌なのにw」

 

「ああ、俺もだよ」

 

 だが、いいように扱われるある日、瑠亜の何気ない一言が和真の目を覚まさせる事となり。操り糸を切られ、鎖を解かれた状態で放たれた和真は「普通」に生きたいと模索する中、期せずしてその万能的な特別性を発揮し、出会う少女達を纏めて救っていく事となる。

 

瑠亜の影に隠れた小動物系新人声優、甘音(表紙右)とひょんな事から出会い、夢に向かって羽ばたこうとする彼女をプロデュースし、瑠亜を踏み台として輝かせ。

 

生徒達を区別するバッチというものを押し付けられた生徒会長、涼華の本心に迫り、瑠亜の醜い一面を引き出しながら、バッチのシステムそのものに生徒達の反旗を翻させ。

 

演劇の特待生として転校してきたかつての幼なじみ、イサミの悩みに向き合い、演劇の中でその悩みを振り切るきっかけを与え。

 

更には普通を志し向かったバイト先でカーストトップのダンス部ギャル、彩茶と知り合い。理不尽な恫喝に心揺らす彼女を、少し強引な形で立ち直らせる。

 

「普通ですよ。わたしと和真くんだけの、『特別』」

 

「責任、取って頂戴」

 

「もちろんボクの初めてだからね?」

 

「世界一かっこよくしてあげるから!」

 

 そんな彼の活躍に、少女達が惚れ込まぬ筈もなく。あっという間に彼の周りには少女達の人間関係が形成されていく。大人や思惑に作られた汚い人間関係ではなく、自分達だけの輝きで創られた人間関係が、彼を囲み持ち上げていく。

 

これは「普通」なのだろうか、と首を傾げてみても答えはなく。だがこれは普通ではない。普通じゃないから平穏ではいられない。けれどそれは今まで望んでも得られなかったもの。求めた日常の輝きなのである。

 

陰キャラが無双し、悪役である醜悪な豚が如き幼なじみが敗北に鳴く。勧善懲悪のスカッとした爽快感もあり、王道のラブコメもあり。だからこそこの作品は王道的に面白いのである。

 

真っ直ぐにこってこてなラブコメを楽しんでみたい読者様は是非。

 

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

S級学園の自称「普通」、可愛すぎる彼女たちにグイグイ来られてバレバレです。 (講談社ラノベ文庫) | 裕時 悠示, 藤真 拓哉 |本 | 通販 | Amazon