さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様は、「世界で一番嘘つきな職業」は何であると思われるか。答えの多くとして上がるのは、「詐欺師」という職業であると思われるかもしれない。それもまた当然であろう、詐欺師とは嘘をついて騙すのが生業であるのだから。しかし、この作品においては、その職業が「役者」であると定義されている。
それもまた、一つの真理と言えるのかもしれない。役者の方々は、与えられた台本と配役に基づきどんな役でも演じる職業だからである。自らの心に嘘をつき、己の人間性とは真逆の役目でも演じて見せる職業だからである。
と、言う前振りから既にお分かりいただけたであろうか。この作品は「役者」という要素が重要になるラブコメであり、「演技」という要素が根底を占めるラブコメだからである。
私立華杜学園。ここは全ての生徒達がランク付けにより等級づけられ、日々火花を散らし切磋琢磨する戦場。芸能界で取引され、時に莫大な金の卵を生み出す役者の卵達が集うこの芸能学校に、一人の少年が転校する。彼の名前は英輔。高名な役者を母に持つも、オーラもない平凡な少年。
彼には心に秘めた、この学園に入学した一つの目的があった。それは自分を役者の道に誘い、そして姿を消した初恋の相手、「情華」を見つけると言う事。彼女がこの学園にいると言ううわさを聞きつけ、彼はこの学園へと転校したのである。
早速、自分を推してくれるSランクの脚本家でもある妹、来愛の助けも借り恋愛リアリティーショーの企画を立ち上げ、二人の少女を巻き込んで用意を進めていく。
元天才子役のEランクなギャル、心菜(表紙右)を「元カノ」として、「雪の女王」とも呼ばれるスター女優、つるぎ(表紙左)を「幼馴染役」として、幕を上げていこうとするリアリティーショー。しかし、つるぎの突然の反逆により予定は狂い、心菜は勝ち目のない勝負の舞台へと立たされる。
一つしかない舞台の上、巡るのは心菜とつるぎ、譲れぬ思いを持つ者達の思い。だがその裏で英輔の思いが糸を引き、全てを手繰り操らんと暗躍する。「最高の助演」であろうとする彼の、誰も気が付かぬ手腕が舞台を気が付かぬうちに掌中で躍らせる。
「俺の嘘までは見破れなかったしな」
そう、果たして何処から何処までが演技なのか、本心なのか。謎が根底に横たわる中、虚実入り混じる舞台が躍るこの作品。正に一筋縄ではいかぬ、複雑怪奇な味のする作品であり。正しくレベルの高い、面白さがこの作品には溢れているのである。
サスペンス風味のラブコメが読みたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
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