読書感想:負けヒロインと俺が付き合っていると周りから勘違いされ、幼馴染みと修羅場になった1

 

 勝つヒロインがいれば、負けるヒロインがいる。と、言うのは大体のラブコメで常識であるし、覆しようのない事実である、というのは画面の前の読者の皆様もご存じであろう。多人数でハーレムでもしているのでもない限り、涙の展開があるのは仕方のない事。だがしかし、負けヒロインはもうヒロインにはなれないのだろうか。そんな事は無いはずだ。誰もが何かのラブコメのヒロインになれる、そんな無限の可能性があるのだから。

 

 

基本的には冷淡に見えて、身内には優しい、人気動画投稿者の裏の顔を持つ少年、陽。彼はある日、偶々訪れた屋上で。学園二大美少女の一人、真凛(表紙左)が彼女の幼なじみである晴喜からフラれている現場を目にしてしまう。

 

「後は、木下のことを忘れさせてやる」

 

決してお人よし、だからではない。だが義理を果たす程度には関係がある。放っておけないからこそ真凛の後を追い、興味ないフリをしながらも、彼女の話を聞いて涙を吐き出させて。彼女を立ち直らせるべく、陽は真凛を動画の撮影がてら、様々な場所へと連れていく。

 

「彼に関わってはだめと何度も忠告したわよね?」

 

彼の不器用な優しさに、少しずつ立ち直る中で陽への想いが変化していく真凛。そんな彼女を面白くなさそうな目で見る少女が一人。晴喜にとってのヒロインであり、陽にとっての幼なじみである佳澄(表紙右)が、彼の事に対して目を吊り上げ、真凛と陽のお出かけにもついてきて引き離そうとしてくる。

 

陽を挟んで真凛と佳澄がぶつかり合い、陽に対して佳澄が冷たい態度を取る中。真凛と心を近づけていく中、陽は何故晴喜が幼馴染である真凛を引き離したのか、という事実に触れていく。

 

それは、自分と佳澄の間にある溝のような理由、ではなかった。佳澄の依存を危惧した優しさから離れた陽とは違い、晴喜はただ真凛の存在により酷い目に遭わされてきたから。露悪的な態度の裏、今も尚いじめを受けていると言う事実を知り。陽は冷淡の仮面の裏、隠されていた思いを見せて決意を固める。

 

「俺が一番に願うのは、今回の件を丸く収めることだ。そのためには尽力する」

 

 最早、放置するわけにもいかぬ。佳澄が身内であるように、真凛もまた最早「身内」であり、彼女を晴喜が抱える問題が困らせている。ならば是非もなし。幸い自分には取れる手段と方法がある。友人である懲らしめ系配信者、凪沙の手を借り自分が傷つく事も厭わずに。彼女達の知らぬ裏、夜の闇の中で。密かに彼は全てを終わらせる。

 

「もう、元通りになんて戻れませんよ・・・・・・」

 

全てを終わらせ、全てが清算される筈、だった。だが投げた賽は戻らず、零れた水が戻らないように、変わった気持ちも戻れない。晴喜と話し合い、関係を清算した真凛は陽と関係を続けることを選び。始めた責任と情があるからこそ、陽もまたその思いを受け入れる。

 

だけど、その脳裏に浮かぶのは佳澄の顔。彼女の思いを知るからこそ、予感するのは修羅場。それはきっと、遠くない未来に。

 

ただ甘いだけではなく、どこか切なく苦くて生々しく。決して優しいだけではない。それこそがネコクロ先生の真骨頂。それが遺憾なく発揮されているこの作品。只、甘いだけではないからこそ面白く。繊細な心が見えるからこそ心を擽ってくるのである。

 

ただの甘いラブコメではない作品を読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

負けヒロインと俺が付き合っていると周りから勘違いされ、幼馴染みと修羅場になった 1 (オーバーラップ文庫) | ネコクロ, piyopoyo |本 | 通販 | Amazon