読書感想:見た目に反して(僕だけに)甘えたがりの幼なじみを、僕は毎日論破しなければならない。

 

 さて、画面の前の読者の皆様は論破と聞いてどんな事を連想されるであろうか。ダンガンロンパ、というゲームの名前を思い浮かべた私は多分古めのオタクであるのかもしれない。しかし、論破と言うのは実は相応に難しいものである。相手の論理の隙を突き、通すべき論理を押し込んで反論も封殺し完膚なきまでにトドメを刺す。そう考えると、中々に論破する、というのは簡単ではないのかもしれない。

 

 

私立明蹟学園、その学園には一つの特徴があった。それはこの学園の生徒会長には多大な権力が渡されると言う事。故に就くまでが死屍累々の道となり、就いた後も一瞬隙を突かれれば容易く奪われてしまう。だがそれを乗り越え君臨した代々の生徒会長の元、学園は何度もその特色を変えてきたのである。

 

「全く特別な行動ではありません」

 

そんな学園の生徒会、現生徒会長である錬理(表紙左)。彼は渡された絶大な権力をあえて使わず何も行使しない事で、凡庸な学園へと学園を変化させていた。そのような実績を持つ彼の自らに課したこと、それは論理を以て行動する事。感情こそを害悪とし、全て論理に基づき規律的に振る舞っていたのである。

 

「これは、友人の話なのだけれど」

 

 そんな彼に日々、「友人の話」という相談で恋愛相談を持ち掛ける一人の少女。彼女の名はりり。生徒会副会長であり、錬理の幼なじみである。さて勘のいい読者様であれば「友人の話」、という言葉に込められた意味はもうお分かりであろう。そう、彼女は彼の事が好きなのである。かつて彼に救われた経験から、その頃から彼女は思いを抱えていたのである。

 

しかし彼女の心を、彼もまた知っている。彼女に向ける自分の中の思いも、彼は気づいていると言ってもいい。だが、彼は懇切丁寧に彼女が日々持ち掛けてくる相談を論破していく。それが正しい道であると、まるで自分に言い聞かせるかのように。

 

まるで怖がるかのように、どこか怯えるかのように。日々生徒会に持ち込まれる相談を捌き、更には学園の裏で静かに蠢いている何かの思惑、問題に立ち向かいながら。日々論破し、それでもどこかちぐはぐに。時に近づき、時にすれ違っていく。

 

「怖くても、ちゃんとぶつからなきゃ」

 

 だが、彼は彼女の本当を見ていない。本当に見るべき部分を見ていない。そんな部分を生徒会役員の仲間に指摘され。全てを抱え込む性分の彼は、自分の過ちも他人の過ちも抱え込み、それでも進もうとする。新たなルールの運用法を自分に定めながら。

 

「―――本当に、言い間違えたの?」

 

正しく主人公もヒロインも不器用。互いが互いにツンデレ過ぎる故に、牛歩のように。しかしそんなラブコメがコメディの中で展開されているからこそ、この作品は面白い。

 

くすりと笑えるラブコメが読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

見た目に反して(僕だけに)甘えたがりの幼なじみを、僕は毎日論破しなければならない。 (MF文庫J) | 森林 梢, Rosuuri |本 | 通販 | Amazon