読書感想:《魔力無限》のマナポーター ~パーティの魔力を全て供給していたのに、勇者に追放されました。魔力不足で聖剣が使えないと焦っても、メンバー全員が勇者を見限ったのでもう遅い~

 

 さて、突然ではあるが要石というものは抜いてはいけないものである。ジェンガにおいて三列のブロックの真ん中は、考えて抜かなければあっという間に崩壊を招くものである。と、益体もない事を言ってみた訳であるが、往々にして要と呼ばれるものには触れてはいけない。何かを壊したくなければ。

 

 

冒険者がいて、ギルドがあって、異種族がいて。そして国により認定された勇者がいて。勿論魔物も、魔王も、四天王もいる。ファンタジー異世界としての必要な要素が全部盛り込まれたとある異世界。その中の王国により認められた勇者、アランのパーティで働く青年、イシュア(表紙右)。

 

 まじめに働く彼はある日、アランの理不尽な言いがかりと難癖により抵抗する間もなく、半ば強引に追放される事となってしまった。だがしかし、それはアランという勇者の破滅の始まりに過ぎなかった。

 

その原因であるイシュアの職業。それは「マナポーター」。直接的な戦闘力はほぼ持たず主な役目はパーティ内への魔力供給という、悪い言い方をすれば魔力タンクのようなもの。しかしイシュアには特筆すべき点があった。それは「無限」とも言える圧倒的な魔力を有していたと言う事である。

 

 さて、勘のいい読者様であればもうお分かりであろう。例えば稼働している戦闘機から急にエンジンを抜き取ったのならどうなるだろう。つまりはそういう事である。

 

追放して早々、王立冒険者学園の後輩であり同じパーティで活動していた「聖女」、アリア(表紙左)に合流され、二人で冒険者をやることになり。冒険者になる前に一つの村の様々な問題をあっという間に解決してみせたり、冒険者になったかと思えば難癖をつけてきた先輩をマナポーターだからこその力で叩き伏せ、ギルドが匙を投げた依頼を次々と解決し。あっという間にイシュアの名は上がり、頼られるようになっていく。彼を追いかつての仲間であった「魔導剣士」であるミーティア、「大賢者」であるリディルも合流し。更には、四天王の一人を追い詰める実力を持つ勇者の一人、リリアンに見初められ。不器用な勧誘を受け仲間となり、新たな勇者パーティとして活動を始める。

 

 

対し、アランは没落していく。自分で信じようとしなかったイシュアの力がなくなった事で、上級ダンジョンで不様に敗北し。更に自身の傲慢さで周りとの軋轢を生み、孤立し。その焦りがエルフの里で暴発し、弱った世界樹を切り倒そうとするという暴挙へ繋がってしまう。

 

その愚行に起こされた結果は止められぬのか。否、そんなことは無い。別件の依頼で偶々駆けつけたイシュアはリリアンやアリアと協力し。神業的な技を以て、世界樹を治療し救って見せる。

 

「ただのマナポーターですよ。魔力がちょっぴり多いだけの」

 

 だが、彼は自分の実力の規格外さを知らぬ。知らぬままに力を振るう、仲間を活躍させるために。そしてその行いが、更に英雄的な偉業を生み出していくのである。

 

追放ものとして王道、故に安定した面白さのあるこの作品。追放ものが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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