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読書感想:飛び降りようとしている女子高生を助けたらどうなるのか?2 - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、一巻で共に手を取り合い毒親からの魔の手を乗り越えて。二巻で近くに住んでいた訳あり幼女とまるで家族のような絆を紡いだ祐介と小鳥のこれまでの道程は、このシリーズを読まれている読者様にとってはもう振り返らずとも良い物であろう。 まるで運命に導かれるかのように出会い、お互いを埋め合うように惹かれ合い、お互いを埋め合っていく。そんな二人の絆は言ってしまえば運命的であり、切っても切り離せぬと言っても過言ではない。
しかし、それはその絆の間には余人は入り込めぬという事。もう完成してしまった絆の間には入り込めない。例えどんな思いを抱いていたとしても。
そんな立場といつの間にかなってしまっていたのが、今巻の表紙を務める翔子である。恋と言う、運命的な流れに乗り切れなかった彼女の、これまでの道程を描くのが今巻なのである。
始まりは高校入学の日、何となく言葉を交わしたけれど、変な奴ではないと思った。
勉強にバイトに、と励み自分を削っていく彼を見ておけず、健康を保つようにとアドバイスをした、「友達」として。
「友達」というだけ、ただそれだけの何となく居心地の良い、まるでぬるま湯のような関係。しかしその関係は、小鳥の出現により激しく流転していく。
「目の前で彼氏さんを悪く言われているのに黙って笑っていられるほど、私は性格よくありません」
敢えて試す為に祐介を非難し浴びた怒り。感じた彼女の良さ、そして勝てないという思い。
幸せになってほしいと感じ、小鳥に迎えられる祐介を見て素直な祝福の念を覚え。
「・・・・・・アタシ、思ったよりも結城のこと好きだったのね」
その瞬間、溢れたのは大粒の涙。それは失ってしまった恋心の残滓。告げられる事もなく、自覚したときには周回遅れ。始まりから叶う筈もない恋心。
その思いと、恋に殉じ自信と父を捨てた実母の言葉が翔子の心を呪いのように苛んでいく。壊してでも奪い取れ、と実母の虚像が心で叫ぶ。
しかし、それでも彼女はそれを選ばなかった。自身の気持ちを押し殺し、忘れる為に祐介の事を送り出した。「主役」の道を切り開く、「脇役」としての道を全うして見せた。
だが、彼女が「主人公」ではないと誰が言えるのだろう。叶わなかっただけで、もし少しでも道が違えば、運命の路線がズレていれば。もしかしたら、彼女が主役のラブコメもあり得たのかもしれない。
今巻はそんな、主役になりきれなかった彼女が思いを振り切り、自分だけの「主人公」と歩き出していく巻なのである。
シリーズファンの皆様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
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