読書感想:グッバイ現実世界 ハッキングから始まる異世界改変

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 さて、画面の前の読者の皆様に突然であるが一つお聞きしてみたいと思う。貴方はプログラミングに関する知識はあられるであろうか。因みに私は全くと言っていい程にない。理系であれば強力な武器となるであろうそのスキル。だがもしそのスキルが、異世界でも有用なスキルであるとすれば貴方は身に着けたいと思われるであろうか。

 

 

 

一つの可能性の先の近未来。ARが日常に欠かせない機材となり、スポーツすらもARを用いなければ成り立たなくなっていた世界。その世界で一つの機械が産声を上げた。その名も「アストラルHMD」。ARでは手に入れる事が出来ない無限の可能性を得ることのできる、まさに可能性の塊であるかの機械。

 

 その可能性の塊を手に入れたVRガチ勢でありプログラミングに詳しい浪人生、ハヤト(表紙右)。彼は二歳年下のかつての幼馴染、ミカ(表紙奥右)と共にVRの世界に存在するSNS「ヘヴン」へとログインする。だが、それは彼等にとって不幸の始まりであった。突如として謎の現象が発生し、気が付いた時には彼等はヘヴンと似通った異世界へと、VRの肉体を元にしたデータの塊の肉体で転生してしまったのである。

 

ネットが無いからログアウトすらできず、死は本当の死となり。逃げ出す事も出来ず、生き延びる事を強制的に選ばされ。ハヤト達と知り合い、この世界で生きる事を決意したバ美肉おじさん、チョビ(ミカの左隣)のように、人々はそれぞれの道を選びだす。

 

 そんな中、ハヤトとミカ、そしてこの世界で知り合った歌姫、アイリ(表紙左)は戦いを始める。元の世界へ戻る為の戦いを。だが、その裏にあるのは一枚岩の思いではなく。それぞれの想いが、そこには交錯しているのである。

 

帰還するため、そして最初の戦闘で死した友人を救う為。プログラム能力を魔法のように扱いながらハヤトは戦う。

 

自らの歌で世界に干渉する歌姫アイリは帰るために。喧嘩して仲たがいしてしまった父親に、生きてまた出会う為に。

 

だが、アイテム製作能力で支援に励むミカは、この世界でハヤトと共に生きていくために。元の世界では自分のせいで遂げられぬ想いがここでは叶う。その想いをここで叶えるために。

 

 そして、この世界では幾多の出会い、幾多の戦い、そして幾多の先人達の足跡が待っている。歴史で語られるような者達もこの世界を訪れ、足跡を残している。だが、その足跡を見つけても何とかなる訳じゃない。何故なら敵は強大に過ぎるから。例え魔法のような力を使えても、もとは唯の人間、特別な力なんてない。故に傷つき、大切なものを捧げる事を強いられていく。

 

「一緒に帰るって・・・・・・約束、したじゃない」

 

捧げたものはあまりにも大きく重く。それでも止まれない。知りたいと言う探求心が心を焦がす、その限り止まれない。

 

 プログラム言語等の電脳的な要素が彩るのは、重厚な世界観。その中に溢れているのは、切なくも一種の熱さを持った心揺さぶる展開で。

 

故に、この作品は面白い。心焦がし、壮烈な面白さを見せてくれる。正に電脳の世界を生きる、電波ちゃん∞だからこそ描ける世界と面白さのある作品なのである。

 

重厚なファンタジーが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

グッバイ現実世界〈リアルワールド〉 ハッキングから始まる異世界改変 (HJ文庫) | 電波ちゃん∞, 和遥キナ |本 | 通販 | Amazon