読書感想:亜人の末姫皇女はいかにして王座を簒奪したか 星辰聖戦列伝

 

 さて、この世界における歴史、世界史の授業辺りで習うであろう範囲には沢山の戦争が存在している訳で、その幾多の戦争の中、そのあちらこちらに、英雄的な事を成し遂げて歴史に残るほどに名をあげた、いわゆる英雄的な者達は存在するわけである。FGO的に言えば、英霊と呼ばれる者達であろう。しかし、英雄と呼ばれる者達は、その1人のみで英雄になった、という訳ではないだろう。様々な事が繋がって、何かを成し遂げる事に繋がり。そして語られれぬとしても、英雄と呼ぶべき者は教科書に載らぬ者達もいたであろう。

 

 

この作品もまた、そんな作品なのだ。人間と亜人種、二つの種族による戦いが長きに続く中。幾人も戦争の中で名をあげ、死んでいった英雄達。そんな者達のお話である。

 

二柱の神が、それぞれ人間と亜人を作り。東に人間が住まうワウリ界、西に亜人が属するネクル界が「神別れの山脈」と呼ばれる大山脈で分けられたとある大陸。ある時より、聖戦を題目に掲げた侵攻が始まり。だが山脈に作られた亜人側の拠点、黒い塔により人間の侵攻は阻まれ、亜人に攻められていた。

 

「悪かったなぁ。あれは、お前に甘えたくなっただけだったんだ」

 

その戦局の中、相棒である竜と共に空を駆け、黒い塔を陥落させた竜騎兵、バラド(表紙奥)。死後に彼等が星座として祭られる中。亜人側への領土への侵攻ルートが開け、戦争が新たな段階へと向かう。 そしてここよりである。幾多の英雄が生まれ、各々の戦いの果てに正座に祭り上げられたのは。

 

初動の遅れた亜人側、自らの仲間達を守り抜くために戦い抜いた猫人、ニャメ。狩人として幾多の人間を暗殺し、だけど大切な事を忘れて殺し屋に成り下がって。恋人の元へと帰れず、狩人座になり。

 

皇女イリミア―シュ(表紙中央)、最初の部下の豚人、ボルゴー。部下を集める事から始め、皇女軍の最初の礎を築き。絶望的な戦いの中、皇女を逃がすために戦い抜いて、ファランクス座になり。

 

人間も亜人も取引相手にする悪徳商人、シーシヒ。取り引き的経済都市、中立地帯を作って暗躍し、最後は皇女の軍に街ごと討たれて悪貨座になり。

 

誇りを忘れた砂漠の犬人、人間にへつらい生きてきたパタ(表紙左)はイリミア―シュとの出会いに誇りを取り戻し、その軍勢に加わり。

 

 

山に生き、傭兵団を率いて聖戦のごく初期から戦い抜いた人類側の筆頭戦士、ニモルド(表紙右)。ただ、遠くへ、遠くへ。どこまでも行きたくて戦い抜いた先に。決死隊となって辿り着いた果ての果て、最後の戦場にその命を散らして大剣座となり。

 

 

無論、語られるのは上記の者達だけに非ず。将軍がいた、聖職者がいた、発明家がいた、探検家がいた。人間にも亜人にも、星座になるほどの名をあげた幾多の者達がいた。自分の戦いに必死に挑み、それぞれの思いを抱えて命を終えた者達がいた。

 

「あなたが望むのではない、神が望んでおられるのです!」

 

その果て、それぞれの戦いはイリミア―シュの戦い、そして人類側の若き戦士、イデルへと繋がって。戦乱を生き抜いた先人達の足跡は若き二人へ繋がり、一つの結実を迎えるのだ。

 

一大群像劇、一大叙事詩。正に大作なこの作品。大きな物語を読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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