さて、突然ではあるが、人には才能が眠っているとしても、その才能が目覚めるとは限らない、と誰かが言った覚えがあるが果たしてあれは誰の言葉であっただろうか。それはともかく。才能を生かすには、その才能にあった環境が必要、であると言えるのかもしれない。例えば現場仕事に才能がある人に事務系の仕事をさせても意味が無いかもしれないし、逆もまた然りである。
ではこの作品はどうであるのか。この作品もまた、無自覚な天才のお話であり。会話劇を中心にした、どこかのんびりと進むお話なのである。
「あんたの場合、こんな人の多い都会じゃなくて、自然が豊かで精霊たちと触れ合う機会が多い田舎のほうが、才能を発揮できるだろうよ」
生活魔法と呼ばれる魔法を使える魔女が生活で重用され、魔物や精霊、妖精と言った存在が居て。魔法使いが様々な場所に根付いているこの世界。とある国の王都で魔女として生活しようとしていたアイリ(表紙)。しかし生活魔法の一つもうまく使えず、バイトも首になってばかり。そんな中、王都の魔法学園に入学するためにやってきた妹、リエルと姉妹の師匠であるサーラと再会し。師匠の言葉で、王都ではなく田舎で生計を立てようと引っ越す事となる。
「お姉ちゃんはわたしよりずっとすごいので。天才なのはお姉ちゃんです」
しかし、基本的には魔女に払う給金がない田舎、それでも生活魔法が求められる田舎で活躍するアイリの才能とは何なのか? それは対「魔法生物」に特化した力。妖精や精霊といった、人間以外から愛され慕われる力。引っ越して早々、友人になった妖精、エルの力を借りて野菜に蔓延していた病気を解決し。魔獣を手なずけたり、山賊をぶっ飛ばしたり。気が付けばオベロンやティターニアといった伝説の存在も彼女に目を付け、よき隣人として、彼女を主人としてやってくる。
王都の魔法学園では、天才として周囲を驚嘆させるリエルが姉の方が天才であると吹聴し。知られてはいなかった彼女の評判が、興味と共に広がって言って。そんな中、アイリの暮らす田舎へ、知覚に広がる大森林の調査のために、リエルが友人と師匠を連れてやってくる。
さて、その調査の行方はどうなるのか。特に何も、恙なく終わる、はずであった。だがそうは問屋が卸さない。神話から続く封印が彼女達の目の前で解け。世界を崩壊させる力を持つ魔竜が目を覚ます。
『その娘が【星】なら、戦う理由はなくなった』
ティターニアも、オベロンも敵わぬ、それこそ誰も敵わぬ、正に絶対的な絶望。しかし、かの魔竜はアイリの虹色の魔力を見、矛を収める。【つなぎ導く地の星】という、アイリが秘めている伝説の力を目撃し。彼女に阿るのである。
無自覚無双、そしてほっこりな温かさのあるこの作品。無自覚最強スローライフを読んでみたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
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