読書感想:はたらけ!おじさんの森1

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方はどうぶつの森シリーズをプレイされたことはあられるであろうか。私は無い。どうぶつの森シリーズと言うと何やら鬼畜な狸がいるらしい、という事しかイメージが湧かない者である。では、もしそんなどうぶつの森シリーズの世界に転移してしまうとしたら、貴方はどうされるだろうか? 果たしてああいった世界に転移して、貴方は生き延びる事は出来るのだろうか。

 

「あつまれ! あにまるの森」。これがこの作品の世界で大人気で社会現象となっているゲームであり、どうぶつの森シリーズ的な位置にあるゲームである。その新作の発売日、購入者の列から子供を助けるべく離れてしまった事で、新作を買いそびれてしまった一人のおじさんがいた。

 

 彼の名前は進(表紙手前)。四十二歳、コピー機の製造、販売会社で総務部に属する皆に慕われるおじさんである。そんな彼は、謎のおじさんから新作を渡され、帰宅して早速プレイしようとする。だが、その瞬間。何故か彼はゲームの中の世界へと転移をしてしまったのである。

 

しかし彼は一人で転移してしまった訳ではなく、仲間がいた。彼と同じように、三人のおじさんが彼と同じ島へと転移してしまっていたのだ。

 

ショップ店員を務める秋良(表紙手前から二人目)、在宅プログラマーの木林(表紙奥から二人目)、かつて職人的な自営業を営んでいた山太郎(表紙最奥)。

 

 彼等へと、この世界へ彼等を招いた、現実世界からスカウトしたガイドのカンナ(表紙右下右)を連れた謎のおじさん、「おじきち」(表紙右下左)は言う。この島に先に住んでいた「あにまる」の面々と協力して島を発展させろ、十の島で発展度を争い、勝てたのならば帰れると。

 

一体どういう事なのか、そう尋ねたいし抗議したくてももう戻る方法なんて在りはしない。だからこそ、この島で生活を始めるしかない。

 

「あにまる」、言わばどう森の住人たちのような知恵のある二足歩行の動物達。その子供達と始めていく、無人島でのスローライフ。けれどそれは、意外と楽しいものである。

 

ある時は食料を採取したり、またある時は釣りをしてみたり。またある時は家を作ったり、他の島と交流してみたり。

 

意外とコミュ力の高い木林の力が見えたり、職人だからこその山太郎の力が発揮されたり、秋良の人のいい一面が垣間見えたり。

 

 そう、彼等は皆優しい「おじさん」であり大人なのである。子供と言う未来の宝を保護する意欲に満ち溢れた、誇るべき、愛すべきおじさん達なのである。だからこそ、彼等にとってこの世界の構造は許せるものではなかった。

 

一定の年を過ぎたらおじきちのように神様の仲間入りをするこの世界、支配者である「わかもの」により「あにまる」達が搾取され、子供達ですら過酷な扱いを受けるこの世界。

 

そんな世界は許せるわけがない。子供は守られるべきもの、だから必要なれば戦いにだって身を投じる。

 

「あにまるワールドと、子供達の未来に、乾杯」

 

 だけど、最後は勝利の祝杯を。ここまで読まれたのならばもうお分かりであろう。やはりこの作品はスローライフである。社会の辛酸を舐めてきた、けれど優しさを失わずにいた愛すべき「おじさん」達の試行錯誤のほのぼのスローライフなのである。

 

読めば笑えるかもしれない、そして心洗われるかもしれない。そんな穏やかな笑いと優しさが心に沁みるこの作品。

 

スローライフを楽しみたい読者様、心穏やかになりたい読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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